【前回の記事を読む】もし、彼と付き合っていたら——平凡な幸せはあったのかもしれない。「女優」として有名人になった今も、思い出すのは……

12.手を変え品を変え

この顔が私だ。この完璧さが私だ。岩塚玲子が仕上げたこの顔の中に、今夜ぐだぐだと考え込んでいた私が住んでいる。住んでいるはずなのに、鏡を見るとどこにもいない。顔だけがある。表面だけがある。完璧な皮膚の下に何があるか、この顔は教えてくれない。

この顔に飲み込まれていく。

気づいたら飲み込まれていた。本山千晴という役が、いつのまにか本山千晴という人間を内側から食い尽くした。外側だけが残っている。外側が完璧だから、誰も中身が消えたことに気づかない。私自身でさえ今夜まで気づいていなかった。岩塚玲子に言われるまで。あの女に。

明日、撮影がある。

明日、本山千晴を演じる。

大丈夫だ。問題ない。撮影はこなせる。10年やってきた。体が覚えている。問題ない。

問題ないのか?

眠れなくてもカメラの前に立てる。眠れなくてもマイクに向かって声を出せる。眠れなくても笑える。これだけは確かだ。これだけは10年以上かけて磨いてきた。磨いたものだけが残っている。磨かなかったものは全部消えた。

消えたものの一覧を誰かが作ってくれたら読んでみたい気もするが読まなくていい気もする。読んだところで今夜のソファで泣けなかったように、何も感じないかもしれない。感じたとして、それが何だ。

感じることがあってもいいんじゃないか。

本を読むのが好きだったでしょう。

あれが本当のあなたなんじゃないかと、ずっと思っていました。

うるさい。うるさい。うるさい。

岩塚玲子、お前はメイクだけしていればよかった。

余計なことを言った。余計なことを言ったせいで私は今夜余計なことを考えている。余計なことを考えた結果、余計なことに気づいた。

気づかなければよかった。気づかせるな。

知らぬが仏とはよく言ったもので、知ってしまった仏は成仏できない。成仏できない幽霊として廊下を彷徨い続ける。幽霊の正体見たり枯れ尾花。枯れ尾花でよかった。幽霊じゃなかった。幽霊だったかもしれないが今夜だけは枯れ尾花ということにしておく。

どうしようもないのに、どうしようもないと言い続けている。

「かかってこいよバッドエンド」、と言いながら、バッドエンドに恐怖している。

強がりでしかない。