地獄に落ちる前に、せめて派手に燃えてやろう。
どんな汚い手を使っても構わない。
欲しいものを手に入れる。
踏みにじっても構わない。行きたいところに行く。地獄に落ちるのが確定しているなら現世で目いっぱい良い思いをして、そしてあの人が言った通りに地獄に落ちて、そこで目いっぱい苦しめばいい。
地獄の亡者どもよ、覚悟しておけ。私が行ったら腐臭を放つ臓物を全部さらけ出してやる。
今まで誰に何をしたか、どんな方法で踏みにじったか、どんな顔で笑いながら背中を刺したか、全部開陳してやる。隠す気もない。恥じる気もない。
閻魔大王よ、舌を引っこ抜こうとするなら引っこ抜いてみろ。これだけ喋り続けてきた舌だ、引っこ抜こうとした瞬間に閻魔大王の手を舌で握り返してやる。それぐらいの筋力は備わっているはずだ。
熱湯の池に放り込むなら放り込んでみろ。熱いお湯には慣れている。シャワーを何時間もかぶりながら、何かが流れていくのを眺めてきた夜が何十夜あったと思ってる。
針山の上を永遠に歩かせてみろ。何度でも歩いて見せる。S中学でも、T高校でも、芸能界でも、何度崩されても歩みなおしてきた。それが私だ。
地獄はそれが確定しているなら今さら怖くない。今から怖がるには遅すぎる。もう既に十分怖い思いをしてきた。これ以上怖いことなんてない。「地獄でなぜ悪い」。「かかってこいよバッドエンド」。
でも、本を閉じた手が、まだ少し震えている。
どうしようもなく疲れた夜に人間は2種類に分かれる。もっと声を張り上げる人間と、急に黙り込む人間だ。私はさっきまで前者だったのに、気づいたら後者になっている。なぜ静かになったのか。
それは鏡が目に入ったからだ。
廊下の鏡に、自分の顔が映っている。
岩塚玲子が作った顔だ。帰ってきてからメイクすら落としていない。完璧な顔が、そこにある。光の当たり方で目が大きく見える。頬骨の位置が整って見える。唇の形が均整されている。
仕上げのブラシが通った後の、どこからどう見ても本山千晴としか言いようのない顔が、暗がりの廊下に静かに浮かんでいる。
これが私だ。
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