その警察官は30代後半ぐらいだったと思う。もちろん当時の私より年上であるがそのころの私は国家権力に歯向かうことに対して、なんかカッコイイとか思うほどアホをこじらせていた。
あの時の警察官の顔と言葉をいまもはっきりと思いだせる。さっきまでの低姿勢の作り笑いが消え冷めた目になり、
「あのな、坊主、こっちも仕事しとんねん。オマエもオレの仕事の邪魔すんなよ」
スッと血が下がるのがわかった。自分の言ったことがすごく恥ずかしくなった。そうなんだよな。この警察官も仕事なんだ。仕事で高速道路の上ででっかい旗振り回して車を停めて私みたいなアホにも頭下げてるんだ。でもそれは皇太子陛下を守るために。
「わかった。10分やな」
「10分です。ありがとうございます」とその警察官はまた作り笑いを浮かべて頭を下げた。
クルマから降りて高速道路の上でタバコを吸いながら(今ならありえないけど)向かいのビルを見ていた。その大きな茶色いビルが伊藤忠商事のビルだということはなぜか知っていた。
ビルの窓から中の様子が見える。腕まくりをして受話器を肩に挟んでメモを取りながら電話している若いサラリーマンが見えた。
国際電話だろうな。英語だろうな。相手はロンドンのジョージだろうな。もちろん聞こえるわけはない。あくまで私の想像だ。でもなんかそう思えたのである。かっこいいなぁと思えたのだ。
いままで頑張ってる奴を冷めた目で見ていた。一生懸命な奴をどこかバカにしていた。自分はなにも頑張っていないのに。オレかなりかっこ悪いかもしれないなと素直に思えた。オレも頑張りたいなぁ。そう思った。オレまだ22歳なんだぞ。
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