第一章:役職定年と静かな排除

五五歳の誕生日を迎えたある日、長年部下を率いてきた管理職は、「部長」ではなくなる。

昨日まで指示を出していた相手から、今日からは指示を受ける立場になる。肩書が外れるのは一瞬だが、その重みは軽くない。これが、役職定年である。

役職定年は制度として語られることが多い。しかし、その影響は抽象的な組織論の中ではなく、一人ひとりの人生の只中で起きている。

本章では、この制度を理念や政策の議論としてではなく、具体的な経験として捉えるため、実際に制度を経験したKさんの語りに耳を傾けていく。

もっとも、制度に馴染みのない読者のために、その背景と目的、主な論点を整理しておきたい。

役職定年とは

役職定年とは、一定の年齢に達した社員が、部長や課長などの管理職から退くことを義務づける制度である。

長期安定雇用と年功的賃金という日本的雇用慣行に根ざした、日本独自の仕組みである。

主な目的は、人件費の抑制と組織の活性化だ。

耳触りはよいが、その本音を翻訳すれば、「その役割はもう終わりだ。そろそろ脇にどいてくれ」という冷徹な通告に近い。


1 ナシーム・ニコラス・タレブ (二〇〇九年) 『ブラック・スワン』 ダイヤモンド社

2 シモーヌ・ド・ボーヴォワール(二〇一三年)『老い』(下)人文書院

 

👉『役割のあと』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「実はゴムに穴を空けておいたの。父のアドバイスで」女に嵌められた──妊娠も嘘ではと思って、病院についていくと…

【注目記事】妹の夫から求められた時、抵抗はしなかった。獣のような音をリビングに響かせていると、2階から妹が下りてきて…

 

ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp