本書は、役職定年、定年退職、そして定年退職後という人生後半の時系列に沿って構成されている。それぞれの段階で直面する困難と、その乗り越え方を論じていく。

・第一章では、役職定年制度の目的と問題点を整理する。

そのうえで、実際に役職定年を迎えたKさんへのインタビューを通じ、日本企業に根強く残る長時間労働やメンバーシップ型雇用、同調圧力の強い人間関係といった要因を検討する。

これらが、個人の意欲やエンゲージメントにどのような影響を与えているのかを明らかにする。

・第二章では、「心の持ちよう」を精神論としてではなく、現実から出発する視点として捉え直す。

渋沢栄一や坂本貴志の考えを手がかりに、マーク・サビカスのキャリア理論や自己概念の揺らぎといった理論的視点を紹介する。

さらに、ジョブデザインやジョブ・クラフティングを通じて、変化の中で働き方を再構築する可能性を探る。

・第三章では、定年制と再雇用制度の実態を整理し、それらがもたらす心理的影響や満足度について検討する。あわせて、定年制を廃止した諸外国との比較を通じ、日本で定年制が維持されてきた制度的背景を明らかにする。

そのうえで、ジョブ型雇用や退職年齢の柔軟化といった現実的な選択肢を考察する。

・第四章では、エイジズム(年齢差別)を制度と意識の両面から捉え直し、老いや退職が生み出す疎外の構造を明らかにする。

ナシーム・ニコラス・タレブ、ロバート・ウォールディンガー、シモーヌ・ド・ボーヴォワールらの思想を手がかりに、情熱や人との関係性が持つ意味を検討する。また、結愛ちゃん事件や政府の委託業務を通じて、抽象論にとどまらない現実の問題に向き合う。

さらに、オンブズマン制度や福祉の持続可能性を軸に、退職世代が担いうる具体的な行動の可能性を探る。

・第五章では、前章までの議論を踏まえ、「生きること」の意味を行動と関係性の視点から問い直す。人とつながり、これまで暗黙に強いられてきた選択を、自分自身のものとして捉え直す。

そのうえで、限られた人生の時間をどのように生きるのかについて、私なりの答えを提示したい。