プロローグ

15年前、単身赴任先の京都府北部で、一切の予兆はなく脳出血を発症し、左腕と左脚の運動機能のほとんどを失った。

前日はゴルフに行っていた。前夜は酒を飲んでいない。

当時、私は49歳11か月。皮肉なことに、50歳になったら一度脳ドックを受けようと考えていた矢先であった。

私は、動物園に勤務していた元獣医師である。動物園の改修や阪神・淡路大震災の復旧に関わったことがきっかけで、集客施設のリニューアル工事とその後の運営に従事していた。

基礎医学の知識と動物の行動観察、工事管理と運営管理に携わった経験が、脳出血発症後の行動や考え方に大きく影響した。

私は子供の頃から「人と違う」とか「変わっている」と言われることが好きだった。自分が評価されていると感じていたからだ。だからこそ、左側半身麻痺という障害を稀有な経験として受け入れることができたのかもしれない。

発症から、急性期、回復期、維持期を経て多くの人に関わってもらいながら復職、自立生活、起業に至った。当初は悲観と絶望しかなかったが、この稀有な状況を楽しもうと気持ちを切り替えて、自分を使った実証実験を記録することにした。

脳出血の後遺症による片麻痺によって私の人生は大きく変わったが、「この期間をなかったことにはしたくない」という強い思いがあったからだ。

本書は15年間に及ぶ記録を基にまとめたリハビリ体験記である。

リハビリの効果には、劇的なものはない。気付かないレベルの変化かもしれない。体が発信するわずかな信号を見逃さず、その意味を考えることを繰り返す。

「自分の感覚と感情を医療従事者に正確に伝えることは難しい」

「日常生活すべてがリハビリ。諦めた時点でゲームセット」

「自分で感じること、考えること、モチベーションを保つことが重要」

これらのことを意識しながらリハビリに取り組んできた。

「リハビリは頭を使ってやらなあかん」

「体の変化を感じること。変化の意味を検証することが大事」

医師や理学療法士から言われたことも心に残っている。

本書が私のように脳卒中後の後遺症に悩む方々やそのご家族、サポートする医療関係者の励みと参考になれば幸いである。