第一の旅路 顔のない世間に裁かれて

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あなたの体温は どこにも予約されていません

僕を消去せよ!

或る声:ダークヒーローが主役で、暗いタッチの映画が好み 四二歳

僕は 社会というOSが放逐(ほうちく)した 再インストール不能なバグデータです

落ちこぼれで不登校生徒 通信制高校中退の履歴書は 裏返しにされたまま埃(ほこり)を被(かぶ)り

年収一八〇万円で生活はカツカツ 体型はガリガリ

四十を過ぎても 社会の底辺を這(は)い回る僕の指先には

削り取られたような生活の煤(すす)がこびりついています

薄れていく髪と濃くなる加齢臭 周りだけでなく自分でも鼻をつまむありさま

母親は 僕が物心つく前に どこかへ消えて

僕は子どもの頃 父親からずっと虐待を受けていました

その父親は 今では認知症が進行 要介護認定

施設に入れるお金もなく 過去の毒と仕方なく同居しています

社会福祉のサービスも 年々予算が削減されているためか

市の相談窓口に行っても 以前にも増して冷たくあしらわれます

二十年以上通い詰めた精神科の待合室で

僕は 自分の人生というエラーログを ただじっと眺めてきました

二週間前に また会社をクビになり もうこれで何度目になるのでしょうか

同僚からの 「すぐに癇癪(かんしゃく)を起こすし 喋(しゃべ)り方や仕草(しぐさ)が変で 相当ヤバい奴だ」というレッテルが

剥(は)がしきれないシールの跡のように 僕の背中に溜(た)まっていきます

ムカついて言い返したら 汚いものを見るような目で

ただの見世物(みせもの)として 冷たくせせら笑われたものです

友と呼べる者は かれこれ二十年以上おらず 誰にも喋(しゃべ)っていませんが 未だに童貞で

告白した女性たちから浴びせられた 「生理的に無理」「好きになる要素が皆無」という吐瀉物(としゃぶつ)は

今も僕の鼓膜を 割れたガラスのように切り裂き続けています

最近は 隣の奥様を汚れた手で慰(なぐさ)める 夜ごとのアバンチュールを妄想しては 隔日でヌイています

遮光カーテンで閉ざした四畳半 無慈悲な殺人鬼が街を破壊し尽くす映画を観ている時だけ

僕の頬は微(かす)かに緩(ゆる)むのです

画面いっぱいに飛び散る返り血と 救いのない絶望のラストシーンこそが

僕を唯一 正当化してくれるシェルターなのです

教会の牧師は 「神は か弱き者に救いの手を差し伸べてくださる」だとか

「神は すべての者に分け隔てなく愛を与えてくださる」だとか

実体のない絵の具で 僕の地獄を塗り潰(つぶ)そうとしたけれど

神は僕を一向にお救いになろうとはしません その温もりを感じたことは一回もありません

僕が死んだら 安らぎをお与えくださるおつもりなのでしょうか