プロローグ
その朝の礼拝の説教担当は、森口であった。
森口善樹(もりぐちよしき)は、聖東学院の、主に中等部で、数学教師として働いている。
聖東学院(せいとうがくいん)中学校、高等学校は中高一貫教育を提供する全日制の私立学校だ。勉学に集中させるために全寮制を採用しており、しかも都会の喧騒から遠く離れた田舎にある。
鹿児島県の中心部から電車で二時間ほど行った駅から聖東学院のある離島までは定期船で三十分かかる。そこからさらに車で登山する。標高が、ちょうど富士山の半分の高さに当たる場所を切り開いて作られた広大な土地に建てられた校舎群はさながら戦国時代の山城の姿を彷彿させ、地元の人々からは聖東城とも呼ばれている。
母体の聖東学院大学は、国内トップクラスの大学で、タイムズストリートが発表したランキングでは世界二十五位、アジア第三位に、上海国際大学が発表したランキングでは世界十三位、アジア第二位に、それぞれランクインされている。
卒業生に有名な政治家、上場企業幹部を多数輩出していることでも有名で、つまりは、この学校出身者が現在日本のほとんどを牛耳っていると言っても過言ではない。
どうして有名大学の付属中学、高校が、こんなに田舎にあるかは分からない。いや、逆にこんな田舎にも付属高校を抱えている聖東学院は、かなりのエリート大学と言えるだろう。構内には生活に必要なものは総合病院などを含めほぼ全て揃っており、さらには最新の映画館、劇場まで兼ね備えており、ブルジョア学校とも言える。
国内では東京、北海道ニセコ、仙台、金沢、名古屋、京都、福岡に付属校があり、海外にも香港、上海、シンガポール、ニューヨークに特色のある付属校がある。だがこれらのたくさんある聖東学院付属校の中でも、全寮制は全国でここだけ、海外ではシンガポールだけだ。
そして、『聖東学院高校』という、他に修飾が付かないシンプルな学校名はこの学校のみで、付属校の中でもトップクラスなのが分かる。卒業生は、東大、芸大進学、留学など一部を除き、ほとんどが聖東学院大学に進学する。
聖東学院は日本中から優秀な生徒を集め、中高の六年間で徹底的なエリート教育を実施する。世間では「天才養成学校」などと揶揄されているが、その評価はあながち間違いとは言えない。
いわゆる「進学校」と言われる学校とは教育方針が全く異なり、時に「ペーパーテストだけはできるが発想力がない」と評価される日本の教育制度に一石を投じていて、実際出身者からノーベル賞受賞者を輩出したことで世間の注目度は一層強まった。日本中の保護者にとって、我が子をこの学校に入学させることは、一種のステータスであり、憧憬だった。