【前回の記事を読む】端正な顔立ちに、少し長めの髪。ほのかに柑橘系の香りが――「お前の名前は?って聞いてんだよ」見惚れていた私は咄嗟に……
第一話 出会い
「なに? なに? そんな改まって」
莉央が身を乗り出して話に耳を傾ける。
「あのね、今日、軽音部の律音先輩と初めて話したの」
「マジ? すげーじゃん」
光輝も吸い寄せられるように視線を向けた。
「別にすごいって程話してないんだけど、たまたま階段で会って……」
「そうなんだ。で、何を話したの?」
私の目を真剣に見つめながら、莉央は話の続きを促す。
「廊下走るなって注意されて、名前聞かれた」
「先生かよ」
あまり興味のなさそうな様子で海斗が呟いた。
「そういう感じじゃなくて……前に食堂で会ったよなって」
「前にも会ってんのかよ。じゃあ初めてじゃねーじゃん」
「その時は話せなかったの」
思うように伝わらずもどかしい。
「でも今日は話せたんだね。良かったじゃん」
相槌を打っていた莉央が微笑んでくれたので少し安心した。
「よろしくって言って握手してくれて、なんかめっちゃドキドキしちゃった」
「そりゃドキドキするでしょうね。依夢さ、もしかして律音先輩のこと少し気になってる?」
「え、気になってるとかじゃないけど、人気ある先輩だからドキドキしたっていうか……」
目が泳いでいることを気付かれないように、瞬きをして誤魔化す。
「でも、最近よく律音先輩のこと目で追ってるから」
「追ってないよ? たまたまだよ。ほら、先輩たち目立つし、いつもみんなに囲まれてるから、つい見ちゃうだけで」
「そうかなぁ。でもさ、今、乙女の顔してるよ?」
莉央は私の心の中を見透かしたようにニヤリと笑った。
「ちょっと! からかわないでよ。次会った時、どうしたらいいかわからないから相談してるのに……」
「大丈夫だよ。普通に話せばいいんだよ」
恋愛経験のある莉央は頼りになるが、男子ふたりのコメントにあまり期待はできない。
「その普通がわからないんだよ」
「それってもう気になってるってことじゃない?」
もう逃れようのない空気が漂っていた。