撮った写真はそのシーンではなかったが、持ち込んだ誕生日ケーキを両手に抱えておどけて見せる表情が写っていた。帰りにお店をバックに店員さんに撮ってもらった写真もあるから全体のようすもわかる。場所も大体わかる。迷うこともないだろう。
二枚の写真を何度も見返して、店に向かい帰路に着くまでの記憶をたどった。店の最寄り駅で待ち合わせたが、私が少し遅れそうになって店に電話を入れたこと。かけ足で向かったら娘の靴底が取れて、商店街の靴屋で適当な靴を急きょ買ったこと。お店に着くと、遅れたにもかかわらず、店員が笑顔で丁寧に迎えてくれたこと。
そのあたりでまどろみ、私は家のベランダから飛び立った。家からレストランまでは10キロメートルあまり。問題は1年前のその日のその時間に行けるかどうかだ。さっきまで見ていた写真から店までの道を思い出す。
すると目の前に雲が出てきて、あっという間に雲の中に取り込まれ、私は方向を見失ってしまう。意識も怪しい。次に意識が戻ったときには雲の切れ間から、街の明かりを見下ろしていた。ここはどこだろう。少し高度を下げてみよう。
足元のほうから電車が現れて私を通り越すと、次の駅に吸い込まれていった。駅前がひときわ明るい。改札前の広場の先に、見覚えのあるショッピングモールを確認した。レストランの隣駅だ。このまま線路沿いに進めばいい。
次の駅の上空に着くと、追いかけてきていたさっきの電車がホームに入ってくるのが見えた。西口のほうに飛ぶと、改札から一番に飛び出してくる私の姿を見つけた。片方の手には白い紙袋を下げている。
そうだ。自分の住む駅前で、急に思いついて花束を買ったんだ。それで少し遅くなってしまった。何とも準備の悪いこと。その日の私が走って向かう先には、いつもよりめかした感じの二人が立っていた。
タイムリープに見事に成功したのだ。10年ほど前の特定日の特定時間への飛行に、一回で成功できたことに驚いた。タイムリープは飛ぶよりはるかに難しいと思い込んでいただけに、拍子抜けした感じだ。今回は本当に偶然の偶然なのかもしれないが。
次回更新は8月26日(水)、11時の予定です。
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