【前回の記事を読む】亡き父の車のダッシュボードから、スク水とセーラー服が出てきた。母と姉が固まった。これは一体、誰か何に使う用の…

父たちの肖像

組合長が組合の副長に呼びかける例としても、些か滑稽が過ぎるのではなかろうか。

しばらくしてクロ吉が帰って来た。

何事もなかったかのようにサーフボードを定位置に置いたクロ吉は、プリントを広げ、机に向かって書き物をしだした。

ちゃぶ台で学校の宿題をしていたクロ子は、珍しく真面目に書をしたためている父をみやり、我が父ながら文武両道とは誇らしい、と思った。

するとクロ吉がクロ子の方をちらと見た。

「クロ子。偉いな。学校の宿題か」「うん」

「奇遇だな。父さんも今、宿題中だ」

クロ吉の手元のプリントには『反省文』と印字してあった。

「私、島で育ったからこんなの当たり前だと思ってて。でもこの話するたびにみんなが笑うから、あれ? うちのお父さんっておかしいのかな? って」

「それは想像以上に面白いお父さんですね!」

運転手は運転より話に夢中になっていた。

私は初めて聞く話ではないから耐えられるが、たびたび堪え切れずに爆笑して前方不注意になるのだけは避けていただきたかった。

「本土に来るまでわかんなかったんですよね。マジで異文化コミュニケーションですよ」

愛する妻子を糧に、迸る家族愛を後部座席にまでお裾分けしながら走る、運転手の父。

組合の副長でありながら、組合長の注意を無視して大波に挑もうとした、クロ子の父。

寡黙で優しくて、性癖を隠し通せないほどに不器用なまま突然消えてしまった、私の父。

家族という括りの中で、こんなにも三者三様の『父親』の姿のあることが、私はなんだか感慨深かった。

父が子に向ける愛情の形もバラバラで、それは不器用だったり、滑稽だったり、割と洒落にならなかったりするけど、なんだかんだで、子供はずっとそれを受け取って、今日まで生きているんだな。

あの日の父の背中が、タクシーの窓ガラスに映った気がした。

その透かしの向こうには、下校途中の女子高生の群れがいた。