長谷川は内田が北米の市場開拓で他人の助けを得なかったのか、と触れたので、本当のところ、この場では言いたくなかったが

「実は、日英商会で現在顧問をされている新堀二郎さんに大変お世話になりました。私が学生の頃、新堀さんは外務省の外郭団体からオハイオ州の出先機関に派遣されていて、丁度日本ウイークが開催された時に、初めてお目にかかり、それがきっかけで親しくさせていただき、卒業後も切削工具の市場開拓で新堀さんの人脈を利用させてもらい大いに助かりました」

「そうですか、そんなご縁があったのですね、だから、顧問が長谷川さんを当社に引っ張ったんですね。よく分かりました、ありがとうございました」

長谷川は、入社の経緯をここで話をするつもりはなく、内田部長からの突っ込みに引き込まれた形になったが、これまでの少し硬い表情が崩れたように柔和に見えた。

数秒の静まり返った時間が過ぎた時、マリン営業部長の三村が「長谷川部長に基本的なことを伺いたいのですが、当事業部をどのようにしていこうと思っていますか」

「所信表明ですね、今日初回のマネージメント会議で皆さんと言葉を交わしたばかりで、個々の部長さんの性格もまだ、よく把握していない段階で軽々しい発言は控えたいのですが、基本的には皆さんがこれまで取り組んでこられた営業方針を踏襲しつつ、人事面では若い人の活躍の場を広げていこうと考えています。いずれにしてももう少し時間をください。よろしいですか」と三村に向かって同意を得た。

「要するに若返りですか」と独り言のようにつぶやいて、隣の大木次長の方に首を傾げた。

長谷川は三村のつぶやきには反応せず、

「今日は初顔合わせの全体会議で皆さんの自己紹介を聞くことが出来、これからの舵取りの参考にさせていただきます。今日、討議出来なかった月次報告については次回からしっかり向き合っていきます。最後に業務部長の大河原さんから何か伝達事項はありませんか」

すっかり会議が終わったものとばかり手元のファイルを閉じていた大河原は、最後に何かないかと聞かれたので、とっさに「当事業部では、これまでの慣習から、新任の事業部長の歓迎会などは行いませんのでご承知おきください」

出席者からは異論もなく、長谷川部長も「承知しました」という言葉で定例会議を締めくくり皆に一礼をして自室へ戻った。

試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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