【前回記事を読む】気になる同僚女性と二人きりになるために…男は“2枚だけ”クラシックコンサートのチケットを用意したが……
転職
演奏会は午後四時過ぎに終わった。高揚した気分を残して会場を出る。
「ランドマークタワーの一階にあるカフェで一休みしましょう」
「はい、まだ、高ぶった気持ちが残っています」
席はすぐに見つかった。
「白川さんは何にしますか?僕は、いつものブレンド・コーヒーとモンブランのケーキです」
「私は、エスプレッソとフルーツタルトを頂きます」
「ところで、白川さんは、一人でいる時、何をして過ごしていますか?」
「夕食後の空いた時間は、書道をすることが多いです。母の趣味が書道で、師範を持っております。私も小さい頃から、やらされていました」
「いい趣味ですね。書道は、気持ちが落ち着きますね。私は、どちらかというと、水彩画が好きです。絵葉書を見て、金閣寺の絵を描いたりしたことがあります」
富永は、さらに突っ込む。
「料理もやりますか?」
「平日は、時間がないのでできませんが、土曜か、日曜のどちらかの夕食の当番は、私です。母からも、料理はきちんとできるようになりなさい、といつも言われています。母の料理を手伝いながら、覚えることが多いです」
「得意料理は何ですか?」
「自分が好きなので、ハンバーグやパスタをよく作りますが、肉じゃが、オムライスもできます」
「それじゃ、いつでも、お嫁さんにいけますね」
「もらってくれる人があれば、です」
「白川さんは、引く手あまたでしょう?」
「どうでしょう、いざ決断するとなると、覚悟がいりますね」
「覚悟とは?」
「一緒にいて楽しい人、気を使わない人、価値観が近い人ですね。それに、経済力がある人ですね」
「そうですね。男性から見ても、明るい性格で、金銭感覚が合う人ですね」
「富永さんは、結婚について、どう考えていますか?」
「僕は、三十歳までには身を固めなさいと母から言われています。こういうものは、縁とタイミングですね。ただ、自分の仕事の基盤が確立してから結婚したいですね」
「話は変わりますが、今度、拙宅にお出でになりませんか? 演奏会に誘われた話をしました時、父が、ビジネスマンの若い人と話をしたい、と言いました。父は、学会の方や学生さんとは、よく話をしますが、産業界の人とは話す機会が少ないのです」
「緊張しますが、会社の同僚ということで、一度、ご挨拶した方がいいでしょうね」
「拙宅には、研究生の方や学生さんがよく来られます。第一日曜と第三日曜の午後が暗黙のルールです。ご都合がつけば、来月第二日曜日の午後二時頃はどうですか?」
「分かりました。では、覚悟を決めて、ご挨拶に伺います」
演奏会を梃子(てこ)にして、二人の関係は急速に深まってきた。
「それでは、お開きにしましょうか? 明日また、会社でお会いしましょう」