【前回の記事を読む】「100点満点は1人だけ」と名前を呼ばれた生徒。だが彼はズンズン教卓に向かい、予想外の“指摘”を…教師は不機嫌になり…

私が空を飛ぶ理由~つばめのつばさ~

社会の先生になりたいな

もうすぐ三年生になる。生徒の誰もが進学先のことを考え始める時期だった。短いアーケードの商店街に入る。右側に並んで歩く「てる」の顔がよく見えた。冬服の胸の赤いリボンは、いつものように向かって左の端が跳ねている。

商店街を真ん中くらいまで来たところで、彼女は前方の暗がりを指さした。

「あそこがうち。思いっきり古いでしょう」と自虐的に笑う。

アーケードを外れた暗がりの中に、白い外壁にヒビの目立つ歴史を感じさせる五階建ての団地が見えた。谷になった狭い傾斜地に、無理やり押し込んだように三棟並んでいる。

私は彼女にずっと聞いてみたいことがあった。時間がない、今聞こう。 

「あのさ、てるって進学するんでしょ。将来の夢とかあるの?」

彼女は聞こえているのかいないのか、しばらく答えない。二つの影が、既にいくつかシャッターを下ろした商店街の光の中を同じ速度で進んでいく。やがて彼女が指さした団地の目の前まで来ていた。

「一応ね」

「一応?」

「うち、大学に行って社会の先生になりたいなあって……」

「ええやん、てるらしいやん。きっといい先生になれるよ!」私の声ははずんだ。

団地の前に着いた。

「四階なんだ」そう言って彼女は手を振ると、一番手前の棟の暗い階段へと消えていった。月明かりの下に、団地は閉鎖された病院のようにそそり立って見えた。手を振り返しながら見上げたが、彼女が昇って行く四階の両側に灯りはなかった。