第二章 心の健康はバランスで考える
不安で仕方がないのです
以前に、選挙に立候補しようとしている方の相談を受けました。
「世の中の役に立ちたいと決意して、自治体の長になるべく選挙に出たいと決断をした。でも、その後になったら、本当に自分で大丈夫だろうかと不安で、不安で仕方がない。これでよいのだろうかと悩んでいる。このまま立候補してよいのかどうか迷っている」という相談です。時期を違えて、お二人から相談を受けました。
その時に、
「不安になるのは、うまくやりたいという気持ちが強いからです」
「やる気がある証拠です」
「それほどに強い意欲があるのですから大丈夫です」
「不安の裏返しは意欲です」
とお伝えしました。その会話の後、お二人とも立候補されて見事当選。おのおののお立場でそのまま長期間にわたって、たいへん立派な仕事をされました。
何かやろうとすると不安になります。人に会うという単純なことでも、遅れたらどうしよう、でも早く着きすぎたらどうしよう、その間何をして過ごそう、でも遅れるとまずいし、などなど。人間は生きている限り不安がなくなることはありません。不安になって、悩んで良いのです。
ある先生は、こんなことをおっしゃっておられました。たいへん感銘を受けました。
「こころを空にみたてなさい。そしてその空には雲が浮かんでいますね。不安は雲のようなものです。雲があるのが日常です。雲をそのまま浮かべておいてよいのです」
素晴らしい説明だなと感激しました。この先生は診療の名人と呼ばれており、私自身の外来ではまねしようとしても同じ言い方はできませんでした。このように、ほかの先生や著書に出会って感銘を受けても、自分の診療の中でそれを生かすことは意外と難しいです。
自分自身が使い込んで磨きをかけていかないと、なじんだ言葉やお話になりません。
本当に自分のものにするにはそれなりの時間や経験が必要です。患者さんたちも同じで、説明を聞いて「はいそうですか」と頷いてみても、なかなか実感としてすぐに自分のものにすることは難しいようです。時間が必要です。