その後その少女の来訪はなく、悠真自身も最初の数日だけで日々の忙しさに期待の気持ちもどこかに吹き飛んでしまった。

テレビ局に行くと、時々美人で有名な人気女優と廊下ですれ違うことがある。しかも本番に向かう途中なのだろう、化粧ばっちりの飛び抜けた美貌を振りまいている。見とれているスタッフもいるだろう。しかし悠真にショックを与えるような美人と出会うことはあの日以来なかった。だからなのか、社長を含め社員のみんなも悠真をスカウトマンに向いていないのではないかと疑問に思い始めていた。

「ぼくには誰にも負けない高い理想があるんです」

それが悠真の偽らざる気持ちではあるが、ただ本音を言うとその理想が思った以上に完璧すぎて、それに近い素材を見つけるのが容易ではないことを意味していた。

誰かが言った「十億人に一人」を探しているのではないかと悠真は思った。「青山、20日の準備はもうできているんだろうな」

突然社長に呼び止められて、何かと思えば来週の件に関する確認だった。それは夏ドラマのメインの少女役を決める公開オーディションに参加するタレントに同行することだった。

当事務所専属8か月目のタレント、彩矢香(本名 高橋綾香)、はっきり物を言う今時の 17歳である。元々は先輩社員の担当だったが、彼の退職に合わせて引き継いだばかりだった。

「もちろんです。彩矢香には想定される質問に対する受け答え方を伝授してあります」

「まあ、あんまりプレッシャーをかけずにやってくれ」

こうして一日スカウト活動を削られることも珍しくなかった。

ただ悠真はこの件にあまり乗り気ではなかった。

TVSテレビのオーディションとは数年前に当てたドラマ『不適切ブルース』の続編ということだが、選ばれるのは大手プロの大型新人・姫子にほぼ決まっているようなもので宣伝を兼ねた一種の出来レースとのことだった。もっと出演の期待ができるオーディションに時間をかけた方が彼女のためだと思うが、社長が持ってきた案件でそれを断る権限はなかった。

夜12時、帰宅した悠真はコンビニ弁当を食べながらビールをすすり、カバンから取り出したノートパソコンを開いた。

 

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