コメントを眺めながら思った。
みんな、亀島紗良の本が床まで溢れた部屋を知らない。
うどんを食べ忘れるくらい本の話に熱中していた彼女を知らない。
バターチキンカレーを頼んで、でも私のキーマを1口もらった彼女を知らない。
写真の前で「人の気配がないのに人の匂いがする」と言った彼女を知らない。
知らなくていい。知る必要がない。私も知らなかったことにする。
亀島が姿を消してから3か月後、私は彼女が出るはずだった連続ドラマの主要キャストとして発表された。
プレスリリースを事務所のスタッフから受け取った時、担当が「ご縁ってありますよね」と言った。
ご縁。笑わせてくれるな。
ご縁というのはこういうやつのことは指さない。これは設計だ。測量して、地盤を調べて、基礎を打ち込んで、建てた建物だ。天から降ってきた縁などではない。
でも「本当ですね」と私は笑って言った。完璧な笑顔で。いつも通り。
亀島の座を奪えたのは、属性が似ていた。これに尽きる。
知性派、現役大学生、読書家、品のある顔立ち。亀島が持っていたタグと私が持っているタグの重複率は高かった。だから穴が空いた瞬間に、代替として選ばれた。供給側の論理はシンプルだ。形の合うパーツを探す。私の形が合った。
でもこれが重要な示唆を含んでいる。
代わりがいるということは、代わりにされるということでもある。
亀島の代わりに私が選ばれたように、私の代わりが選ばれる日は必ず来る。
供給側は常に最適なパーツを探している。今日の最適が明日も最適である保証はない。摩耗する。劣化する。より新しい、より良いパーツが出てくる。
だから速度が要る。代わりにされる前に、代わりの利かない存在になる。
代わりのない立場などないのだ、この世界には。だからこそ、この人に頼みたいと強く思われるポジションへとのし上がっていかなければならない。考え続けなければならない。止まった瞬間に、抜かれる。
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