【前回記事を読む】北朝鮮へ向かう空港で職員に疑われ、別室へ…「訪朝の目的は?」と問われて正直に答えると、職員は面食らった様子で…

1回目の訪朝

1 やっと叶った2008年の訪朝

■採集の始まり 〜まずはホテル「内」から〜

急いで部屋に戻った私は、頭にヘッドライトを装着し、首からは吸虫管(微小な虫をチューブ型ストローで吸い取ってゲットする器具)を垂れ下げ、左手には毒瓶(酢酸エチルを含んだ脱脂綿が入っていて、採集した昆虫を入れて保管する道具)、右手には直径60cmの虫網を携えて、いざ部屋から廊下へと出陣! 

朝鮮の昆虫類に関しては近年採集された標本もなく、記録も十分にないと推測していたため、どんな虫でも何かしらの新知見があるだろうと思いワクワク感で満たされた私は、ホテル全体が戦場に思えてなりませんでした。そしてまずはホテル「内」から採集開始です!

……と言われると首をかしげる方も多いかもしれません。なぜなら採集は普通、野外で行うという印象がありますからね。しかし、決して昆虫の調査は野外のみで行うのではありません。調査対象によっては屋内でも十分採集ができるのです。さすがに到着したばかりで、周辺の自然環境も分からず疲労もしていたので、まずはホテル内で採集することにしたのでした。

ホテルの中の採集ポイントは主にドアや窓枠の周辺で、それらを重点的に見ていきます。

これは一度侵入した昆虫類が外に逃れようとして、大体がこの透明な壁=窓ガラスに行く手を阻まれ、悪戦苦闘空しく敗れた結果、そのほとんどが下で待ち構える「枠という棺」に転がり込んで干からびて死んでしまうからです。採集品は最終的には乾燥させて標本にするので、昆虫分類学者にとっては死骸ももちろん大切な研究対象となります。

(死んでカラカラに乾燥した昆虫類は、お湯に浸すと軟化するので、また形を整えることができます)