【前回の記事を読む】夜の店で、定年目前の男が口を滑らせた…内容は、芸能界で集めた“不倫”や“脱税”の噂——極秘情報を仕入れた私は…

9.友だちを殺してまで

私が手に入れたのはそのアーカイブへのアクセス権だ。

その中に、1人の名前があった。

亀島。23歳。私と同じK大学の大学院に在籍しながら、子役上がりではなく、20の時にスカウトされた、いわゆる『素材型』の売れ方をしている。ブレイク寸前のフレッシュな女優だ。

進学校出身で本が好きで、インタビューで太宰治とか寺山修司を引用するタイプ。顔の輪郭は私より柔らかく、でも骨格の作りは似ている。『知性派』というタグが先行している点も、『現役学生』という肩書きも、属性として被っている部分が多い。

そして、下衆な笑みを浮かべた本郷はこう言った。

「亀島ちゃんはね、今ちょっとやばいんだよ。既婚の俳優と噂があって」

誰と、というのも聞いた。名前を聞いて、脳内でデータが繋がった。パズルのピースが揃う瞬間の感触だ。気持ちがいいとか悪いとか、そういう話ではない。ただ、繋がった。

つながった瞬間、私には思考を巡らせた。

属性が被るということは、つまりポジションが被るということだ。

まだひよっこの私と、売れつつある彼女を比べるのはおこがましいかもしれないが、要素だけ抜き出せば同じようなものだ。年を取るにつれて、アイドルの顔が分からなくなるような中年にすれば、同じように写るだろう。ある意味で残酷だ。

ポジションが被る存在には2択しかない。

潰すか、使うかだ。

私の勝ち上がりの道筋には共存共栄の選択肢はない。

そして、人間というのは共通点の多い相手を好きになる傾向があるらしい。これを心理学では類似性の法則と呼ぶ。大学で得た数少ない有益な情報の1つだ。

心理学の授業は今までやってきた私の技術が学術的に裏付けされるのが、丸付けされているような気持ちになって、なんだか肯定されている気分になる。ずいぶんひねくれた肯定かもしれないが。