はじめに

「終の棲」シリーズは「Ⅵ」を以って終了と思っていました。気力体力共に弱ってきて、多少の心残りはあったものの途中で投げ出すことになったら、幻冬舎をはじめ多くの方に迷惑をかけると思っていたからです。しかしその思いを覆すだけのことが、老人ホームだからこそ起きて私は諸(もろ)それにぶち当たりました。

一つにはセカンドキャリアでこのホームに赴任してきた女性スタッフの介護職への動機を聞いたからです。

彼女は長年の銀行業務で専門性を高めていましたが、六十五歳の定年を迎えたとしても何も残るものがないと常に考えており、介護の研修を受けたと言います。その研修で「尊厳の保持」と「自立支援」を学んだ時、それまでの介護のイメージがガラリと変わったそうです。

その直後、新聞一面を使った厚生労働省の広告「セカンドキャリア あなたもできる介護のしごと」と題した文章に目が留まりました。介護職の人員不足は私も承知しており、老人ホーム入居者の一人としても心を痛めていたからです。

幻冬舎の担当者にそれを伝えると「セカンドキャリアに介護を選んだ方たちに焦点を当てた企画は非常に興味深いと思いますし、現代の日本社会に向けて発信する意義はとても大きいと感じます」という返事がきました。

そしてもう一つ、私がこのホームで認知症の入居者から受けた「事故」でした。その直後、私は「その行動には必ず理由がある」と考え、やはりこのホームのスタッフから学んでいた知識と認知症についてこれまでに学習してきたことを一つの文章にまとめていました。

というのも、私は老人ホームの大きな問題として認知症対策を位置づけており、またその家族が私に謝罪に来られた時に私が手渡したメッセージが私とその家族をつなげることになったからです。その二つが私の熱い使命感を奮い立たせてくれました。

『終の棲Ⅶ』のスタートです。