お母さん、料理教えて! 和裁教えて!

「お母さん、料理教えて!」とヘルパーさんが「生徒」役で料理教室を始めた。が、ネタが切れ始めたので母の得意な和裁に方向転換。母は和裁のプロでそれで飯を食っていた人だ。ヘルパーのFさんは自前で三千円投資して、娘に着せる、と浴衣用反物を買ってきた。このヘルパーさんの発想がすごい!

母は「和裁教室」が介護サービスだという認識がない。文字通りお母さんに教えを請いに、どこかの娘さんが来ている、という感じだ。前回はようやく袖の部分のみ裁断。しかし、「端切れの生地が多すぎる」と感じたヘルパーさんは前に進めない。

端切れが多いということは、どこか寸法がおかしいか、何か取り忘れていないか、母の言う通りの寸法で裁断していいのか、ふん切りがつかない様子。失敗すると母の「自信」を覆しかねない。ヘルパーさんにすごいプレッシャーがかかっているのはそばで見ている私にもわかる。どんなことをしても完成させなければならないのだから。

母は寸法に関しては職人のそれだ。知識というより技能に属すると言っていい。1000着以上縫ってきたのだから。でも、認知症が出始めているのを知っているヘルパーさんは、母の言う通りにお任せで裁断するわけにはいかない様子。

仕事し始めると母の表情が変わる。険しくなる。仕事人の顔になる。裁断を躊躇するヘルパーさんにイラ立って

「シューッと切り!」

と母の声も大きくなる。思わずヘルパーさんが

「お母さん怖い!」

母は私に「ヘルパーさんには和裁の指導を断りたい、自分には重荷だ」と言っていた。が、ヘルパーさんがやってきて生地を見ると「和裁職人」に豹変する。二時間の「教室」が終わると、「買い物に行こう」と身支度を始めた。気分はハイになっている。この場合は往復(一キロ弱)歩き通せるな、とこれまでの経験から予感はした。

足は軽やか、スイスイ進む。足の動きと心理とどう繋がっているんだろう? 帰り道は「のせて」と頼まれシルバーカーに乗せたが、希望を持たせてくれた一日だった。

試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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