【前回の記事を読む】「あんたのお母さん、ちっとも来はれへんなー」目の前にいる母にそう言われた。私が「あなたと私はどういう関係?」と聞くと……

第4章 認知症 母が変わり始めた日

法事はリハビリの特効薬

認知症も進行し、外出時には何を着るのかわからず、判断停止となり、「何を着るの?」と私に助けを求める母が豹変していた。法事の前日の夕刻、着物用和ダンスからラックを引き出し、床に置いてあるのを発見。

その和ダンスのある物置小屋と化した部屋まで一人で行っただけでなく、着物が載せられた重いラックを引き出して床に置くという行動を無事に済ませたことも驚きだ。ラックはまっすぐに手前に引かないと出せない。少々のコツがいる。さらに床に置く時にバランスを失って転倒しかねない。普段なら本人自身が怖くてできない行為のはずだが。

しかも、結果を私に言わないのもクセモノだ。私が和服はやめときと言っていたからだ。私の留守中にこっそり準備しようとしたのだ。

和服を着ていきたいのは「津村家として恥ずかしくない服装でなければ」という思いからだろうが、自分の不自由な身体のことを忘れているようだ。心は常に過去にタイムスリップしている母だから自然なことであるが。

問題はトイレが近くパンツを下ろす前にお漏らしすること。着物がおしっこで汚れれば洗濯機で洗うわけにはいかない。こう説明していつも納得してもらっていたのだが。

不思議なことはまだある。法事でのお墓への坂道、手すりもない幅五十センチぐらいの階段を上る際、普段なら両手を持ってもらっても足がすくんで前に進まないような所なのに足がスムーズに出ている。料理屋の階段も片手を私に抱えられてではあるものの、自分で手すりを持ちつつスイスイ上る。まるで火事場の「バカ力」を発揮したかのようだった。

さらに、よく食べ、笑い、ビールもコップ一杯飲み干して帰りの電車で居眠りもしない。普段は日中ベッドで眠りこけている人なのに。

原因は法事の対象である義理の姉の家族の皆が母に次々と声をかけてくれ、母は久しぶりの親族の温かさに触れたからではないかと思う。関係の深かった人たちとの久しぶりの再会が、母の頭をエキサイトさせたのだろう。法事が母の眠っていた記憶を呼び覚まし、頭を覚醒させ、手足も内臓も活性化したのだろう。すごい効果だった。