【前回の記事を読む】審査員と“大人な関係”を持ち、夢だった芸能事務所にコネで合格。しかし、最初の半年で任された仕事は——

9.友だちを殺してまで

ひな壇の端っこというのはカメラが基本的に向いてこない場所で、向いてきたとしても2秒以内に引いていく。存在感のコンペティションで最下位を取り続けているような日々だ。ギャラは3000円ポッキリ。

もらえるだけありがたいと考えるのか、華の女子大生を2時間拘束してこれかとがっかりするのかはあなた次第。

私はありがたいと思えるほど性格が良くなければ、金にも困っていないし、がっかりするほどこの業界を神格化してもいない。

勘違いしないでほしいのだが、これを不満として言っているわけじゃない。現実の話をしているだけだ。男のコネというのはそういうものだ。扉を開けてもらうことはできる。でもその先で何をするかは、完全に自分次第だ。

高畑が私にできることは再現VTRのモブとひな壇の端っこへのねじ込みで、それ以上は彼の権力の射程外だ。ここで高畑はお役御免だ。やすやすと乗り捨ててやる。

まずそもそも、一般の成人女性との一晩の同衾など相手に致命傷を与えられるほど、威力は高くない。ありがちな不貞だ。だが、高畑は日和った。

きっと、過去を掘り返せば、芸能界をちらつかせて不貞を働くような同じことをしていたからこそ、告発を恐れたのだろう。ざまあねえな。

今の私はほぼ0から始まっている。

その事実を冷静に処理した上で、現状の棚卸しをした。所属事務所あり。仕事はほぼなし。名前を知っている人間は今のところ高畑1人で、その高畑も私を積極的に売り出す義理はない。彼にとって私は腫れ物も腫れ物だ。刺激しない方がいい対象だ。

使えるほどの権力は使ってくれたが、それ以上は無理だ。お互いわかっている。これはそういう取引だ。黙示の合意、とでも呼ぼうか。テキストに残らない契約ほど、双方が守る。

生活費のためにホステスのバイトは続けている。事務所からの収入など笑えるほど少ない。両親と決別した身において、奨学金の返済を考えると笑えない。笑えないが笑う。笑わないとやってられない局面というのが人生にはある。大人になるというのは、笑うべきでないタイミングで笑える筋肉を育てることなのかもしれない。

大学の授業にも出ている。出ないと単位が危ない。単位が危ないと留年する。留年すると『現役女子大生』という肩書きに傷がつく。傷がつくと商品価値が下がる。だから出る。

勉強が好きだからではない。好きになったことなど1度もない。勉強が好きな人間というのは、勉強以外の場所で負けが続いている人間か、あるいは本当に特殊な変異体のどちらかだと思っている。私は後者を1人も見たことがない。

事務所には先客がいた。

子役から積み上げてきた女の子、有名劇団出身の男の子、地方のローカルタレントから這い上がってきた人間たち。みんなが何年もかけて積み上げてきたものを持っていた。正攻法の塔だ。高さの違いはあっても、積み上げた手数が違う。

汗と時間と悔しさで作った塔の前に、バンカラみたくコネ1本引っ提げて正面玄関を通ってきた人間が1人現れた。その状況を好意的に受け取れる人間がどれだけいるか。