今日、一日(ついたち)は母、桜花と祖母の月命日(つきめいにち)、そして今年は三回忌と七回忌だ。二人ともその日を選んで死んだわけじゃない。どちらも病死だった。けれど、月命日を迎えるたび、月の始まりを告げる一という数字が二人の生き様を表しているように感じる。

柊は写真に向かって今日から二学期だと心で伝えると、自分で飲むための一服を点てようと隣の茶室(ちゃしつ)に座った。お湯の温度が上がり、お湯の煮えたぎる音が静かな部屋に鳴っている。

柊は茶釜(ちゃがま)に柄杓(ひしゃく)で水を少し足した。

お湯が静かになった。いったん湯通しをした茶碗に、茶杓(ちゃしゃく)で茶を入れた。あらためて柄杓を取り、茶碗にお湯を注いだ。ふっと茶の香りがわき上がる。茶筅(ちゃせん)を取り上げ、そっと茶碗に入れて茶を溶いていく。茶筅の音だけが部屋に響く。

柊は誰もいない茶室で、一礼し、茶碗を押しいただき、正面を避けて湯気の立った茶を飲む。点てたての茶の香りと苦みと甘みが混ざった茶の味が口いっぱいに広がった。

二年前の今頃までは桔梗はここで元気に茶を点てていた。稽古(けいこ)日にはたくさんの社中(しゃちゅう)さんで賑(にぎ)わっていた。その一か月後に亡くなるなど思いも寄らなかった。

茶室のあるこの日本家屋は父、晴彦(はるひこ)の実家だ。祖母の桔梗はこの家に実質一人で住んでいた。二階の一部屋を柊が使っていたが、自分と父、姉が住む家はここではない。最寄りの駅は一緒だが、ここから少し離れたマンションだ。

柊は五歳の頃から祖母のこの家で過ごすことが多かった。祖母亡きあともほとんどの日々をこの家で過ごしている。この家のこの茶室は柊にとってどの家のどの部屋よりも大事な場所だ。

物心ついてから恐らく、最も多くの時間を過ごした。

決められた手順にすべて意味がある、流れるようなお点前(てまえ)を眺めているのも好きだった。小さい頃はお菓子ばかりが気になったが、早いうちに抹茶の味自体が好きになった。種類の違う抹茶もすぐにわかるほどに。

茶室にいれば誰かが一緒にいてくれる。上下関係なく、その時を慈(いつく)しんで、誰もが尊重される。子供扱いされずにその場にいられることが柊には心地良かった。

早く大人になりたかった。大人になればいろんなことがわかるはずだと思ったからだ。何より、手のかかる子供でいることが嫌だった。

茶室だけは誰も拒まない。ただ、そこにいることを許してくれる。ここにいていいと言ってくれる唯一の場所。小さい頃からここだけが柊の存在を認めてくれる場所でもあった。今も柊は思う。ここさえあればいい。人生に多くは望まない。

紅葉山高校はその名の通り、紅葉山のふもとに建っている私立男子高校だ。柊は最寄りの駅から三つ目の「紅葉山高校前」というまさにこの学校のために作られた駅を降りた。駅からはき出されるブレザーの学生服同様、ジャージやユニフォームで降りてくる生徒も多い。

 

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