Ⅰ 片想いだらけの青春

プロローグ

結婚して五十年が経った。先日、音楽番組で山口百恵さんの『いい日旅立ち』が流れてくると、妻はそれに合わせて歌いだした。

「君には(歌に出てくる)そういう人が現れたの? それってオレか」

妻は東京に出てきてこのかた、何年も、いや何十年も郷里の桜を見ていないというので、今回里帰りに同行し熊本を訪れた。久しぶりというのと、この後いつ来られるか分からないからと、幼馴染みや学生時代の友人と旧交を温めていた。

若き日の交遊を思い出しては笑い転げたり、涙を流したり懐かしい時間を過ごした。鹿児島空港で再会した一番の親友とは彼女がボーイフレンドからもらったという恋文が話題になって、笑いながら楽しそうに語り合っていた。

意中にない男性からの手紙はうっとうしいばかり。一読してそのままにしていたそうだ(女心って、そんなものなのかなぁ。男のロマン、敢えなく撃沈!)。

1 わが家に落雷

小学校入学前のことだから多分四、五歳か、昭和二十年代の半ば頃だろうか。わが家が営む公衆浴場に落雷があった。姉の話だと当時新聞にも載ったそうだ。まだ幼くて記憶がおぼろげな頃だが、この時のことはハッキリと覚えている。来客があり奥の和室で皆で歓談していたら、突然稲光とともに雷鳴が轟いて煙突にカミナリが落ちた。

当時、わが家には避雷針の設備がなかったため、室内のタンスの上に置いてあったラジオを通過して、その下で来客の相手をしていた母親の金歯に伝わって、傍にいた私をかすめて地表に落ちた。そのせいか私はカミナリにうたれていかれたらしいと周りは見ていた。自分自身は雷のエネルギーが体内に籠もったように思っていたのだが。