【前回の記事を読む】元教え子から「施設に入所した」と電話が…あの頃は元気が過ぎるくらいだった彼に、打ち明けられた“ある想い”に私は…

第一部 自分史とことわざ

(1) 自分史の効用

人生をもう一度生きる

さらに、見えてくるのは個人の記憶だけではありません。家庭や職場の空気、社会の動き、時代の背景――、そうした広い視野(パースペクティブ)を得ることで、自分の立ち位置がよりはっきりと見えてくるのです。

こうして書くことの意味を語ると、少し堅苦しく感じる方もいるかもしれませんね。

だから、もっと率直に言いましょう。書くことは、何よりも楽しいのです。

それは、何年かぶりに新婚旅行の思い出の地を訪れるようなもの。あるいは、かつての初恋の人に会いに行くような、少し切なくて、でも心が躍るような体験です。そして、それらすべてが「書く」という行為によって可能になるのです。

そうです――、思い出の場所で、思い出の時間をもう一度味わうのです。喜びも、悲しみも、すべてを含めて、自分の人生をもう一度たどってみませんか?それこそが、「人生をもう一度生きる」ということなのです。

自己の成長を助けてくれる

自分史を書くということは、自分の過去――行動、言葉、思考――を、時間と距離を置いて、まるで第三者の目で見つめ直すことです。

人は何かに夢中になっているとき、自分自身を見失いがちです。しかし、その場を離れて振り返ることで、当時は見えなかったことが見えてくる。

これは、自分を他人の視点から眺めるようなものです。他人の目は、自分に対して甘くはありません。だからこそ、自分では気づかなかった長所や短所が浮かび上がってくるのです。

長所は伸ばし、短所は改める――、それが、より良い生き方につながっていきます。そしてそれは、これまでの人生に「有終の美」を添えることにもなるのではないでしょうか。

距離だけでなく、時間を隔てて自分を見つめ直すこともまた、新しい発見につながります。例えば、ある出来事を自分史に書いたとします。そして何年か経ってから、もう一度その出来事を振り返り、書き直してみる。

すると、以前とは少し違った視点が生まれていることに気づくはずです。これは、時間の経過とともに経験が積み重なり、見方が変化するからです。