【前回の記事を読む】「テニサー」に入った目的は「テニスが楽しそうだから」。そんなピュアな理由ではなかった——性的な魅力を感じてもらいやすいこの時期に……

8.THE WORLD IS MINE

芸能界というのは煌びやかな一面もある一方、深く影を落とす一面もある。光が明るければ明るいほど、闇は深くなるのだ。

芸能界入りを渇望する純粋な思いを踏みにじり、芸能界デビューをダシにして条件の悪い契約ばかりを飲ませる悪徳事務所も中には存在する。そしてそんな狡い戦略を取れるのは、知名度も影響力もない弱小事務所だから成せる業なのだ。

そして、シンプルに弱小事務所ではメディアとのコネクションが弱い。少し強引にでも新人をねじ込める力を持つ事務所でなければ、as soon as possibleの躍進は厳しいだろう。もう今までの人生で十分苦汁は飲んできたから、ここいらで楽させてほしい。

確かに弱小事務所から成りあがっていくシンデレラストーリーは、判官贔屓の感情が強い日本人にとっては大きな武器になるかもしれない。だが、あまりにハイリスクハイリターンだ。芸能界という大博打に、更なる大博打を打つほど、私の思考はギャンブラーに染まっていない。

だが、すんなり入り込めるほどこの世界は甘くなかった。

最初のオーディション、応募総数4000人。書類審査を通過した。1次面接を通過した。2次審査を通過した。最終選考まで残った。

最終選考の待合室で、他の候補者を観察した。

全員が何かを持っていた。歌が上手い、ダンスができる、事務所経験がある。それぞれが何かを積み上げてきた人間たちだった。汗と時間と悔しさで積み上げてきた、正攻法の塔。

私には何がある?

顔。それだけだ。

顔の良さを通貨として、高校生活を過ごした。でも芸能界の舞台においてこの通貨は最も競合するだろう。私より顔の良い人間は、この業界に掃いて捨てるほどいる。競合の中で私が顔だけを武器にした時、コモディティ化は避けられない。差別化できない通貨は、価値を失う。

結果は不合格だった。

その後もいくつかのオーデションを受けてみたが、最終審査まではトントン拍子で行くものの、最終審査で落とされてしまうケースがほとんどだった。そのほとんどに審査員からのフィードバックがないことに腹が立ったが、敗者に善意を振り撒く理由などないのだ。

顔以外の取り柄がない。これが問題だ。

顔以外の取り柄を積み上げるには時間がかかる。時間をかけている間、顔の資産価値は下がる。下がる資産に追加投資をするのは、財務的に非効率だ。ならば時間をかけずに顔の資産価値を最大限活用できる場所に行く方が合理的だ。美のファイナンシャルプランナーになったような気分だ。

時間をかけずに、業界の人間と繋がれる場所。

答えは最初から出ていた。