フアランポーン中央駅は1916年にフランクフルト中央駅を模して建てられたドイツ風の古色蒼然とした駅で、この年ちょうど創建50周年目を迎えていた。ちなみに我々3人がそのホームへと向かった日は1966年11月3日であった。
フアランポーン中央駅のホームは、ドイツ式の高いドーム屋根の下にあり、コンクリート敷きの地面から直接、列車の階段をよじ登るようにして乗り込む。
5両編成の客車を、1台のディーゼル機関車が引いており、車両はいずれも中古だった。3人は一番上等な座席指定車に乗り込んだが、入口でアルミの車両プレートを見たら東○車輛と書いてあり嬉しくなった。
座席は薄汚れた緑色のビニール張りだったが、あちこち切れていて、少し汚れていたので私はさりげなくハンカチでぬぐった。
アピラック氏は、カーキ色の短袖シャツに同色のズボンを合わせ、タイ官吏の制服姿で、少し大きめの鞄を持っていた。
私は、短袖の白い開襟シャツにアイボリー色の長ズボンを着て、短靴に似た茶色の革サンダルを素足で履き、通称「ボンド鞄」を持っていた。
当時はハリウッド映画が全盛時代で中でも“007シリーズ”なる映画が次々とヒットしていた。
ジェームズ・ボンドと名乗る英国のスパイが紺色の背広姿で颯爽と暴れまわり、そこに各国の美女達がからむ。世界各地の美しい観光名所、怪しげな暴力組織との死闘、派手なアクション、その主役の最高にカッコイイ男が常に携行しているビジネス用の鞄は“ボンド鞄”と呼ばれ、当時世界中のビジネスマンの必携品だった。
私は日本のエー○社の黒いプラスチック製のボンド鞄を愛用していた。鍵はしっかりしており、トラックに踏まれた位では壊れない。防水仕様で、中にはビジネス書類、旅券、旅行小切手、現金、下着類など、必要なものすべてが収まる。
疲れた時には椅子代わり、野に寝るときは枕にも使える、それでいて軽いまさに忍者アイテムだった。
スッチャイ氏は太った体に短袖シャツ、普通のズボンとサンダルで少し小さめの鞄を持っていた。