「教育費がどれだけかかったと思ってるの?」

「あなたのために塾に何年も通わせて、受験させて、制服も買って、それが全部無駄になった」

「私がどれだけ期待してたか、分かる?」

私への問いかけではない。自分の被害を確認する独白だ。娘が3ヶ月間、毎朝制服を着て図書館に逃げ込んでいたことへの言及は、一切なかった。私が何を感じていたか、何が辛かったか、それを聞く言葉は、ついに1度も出てこなかった。

ありがとう、と思った。

聞かれなくて良かった、と思った。あの人に私の内側を説明したくなかった。あの図書館のことも、緑茶のことも、汚したくなかった。

公立中学への転校手続きが進む中、私は窓の外を見ながら静かに整理していた。

私の生きづらさは、いじめだ。

小学校でも、中学でも。孤立させられ、無視され、笑われ、消しゴムのかすを飛ばされ、LINEグループに入れてもらえず、上履きに墨汁をかけられた。それが私の人生の大部分を占めている。

では、なぜ私はいじめられたのか?

たどれば、母にたどり着く。

給食を食べさせてもらえなかった。地球が平らだと言う母親を持った。そのことが知られて、笑われた。『変な家の子』というラベルを貼られた。一度貼られたラベルは剥がれない。小学校でのそれがO中学にまで持ち込まれた。情報の伝播速度を甘く見ていた。同じ塾の子が、同じ学校に来ていた。そして噂を持ち込んだ。

私の異端さは、全部あの人から来ている。

私がいじめられ続けたのは、あの人が原因だ。

この因果関係は、もう疑いようがない。

怒りが来るかと思ったが、来なかった。それよりも冷たく、静かな何かが胸の中に落ちた。感情というより、認識の更新に近かった。私はずっとどこかで、状況のせいにしていた。運が悪かった、環境が悪かった、タイミングが悪かった。でも違う。原因は特定されている。本山優子。それだけだ。

そして次の思考が、自然に来た。

いじめられる側で居続ける必要は、ない。

いじめる側と、いじめられる側。この2つに人間を分類すれば、私はずっと後者だった。なぜか。異端だったから。弱かったから。孤立していたから。標的になりやすい属性を、山ほど持っていたから。

では逆にすればいい。

次回更新は7月17日(金)、16時の予定です。

 

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