第一章 注射にしますか、お薬にしますか?

レンギで腹切る血の涙

上から押さえることも、捕まえることもできぬ。バンドを緩めチャックを下げる。

とうとうズボンをずらし、パンツも下げた。
みっともない格好だが、孤島で辺りに人影はなく問題はない。
下げたズボンを叩(たた)いたり振ったりしたが、どこにいるか分からぬ。
ズボンを引き上げると、途端に股ぐらの周りを這い回る。

「ヒヤアー……」
「くちゅぐったい」

ズボンの上から腰の周り、そこら中を叩き回す。

動きが止まった、再び下着とズボンをずらす、すると上着の下、シャツの間から飛び出し、花道を走るようにチンコの先へ、……レレレッ……。

平手で先っぽ目がけ、パチーン……イターイ。
一瞬早く、岩の上へ逃げられた。

逃げ足が速い。二度とズボンの中に入られてはイカン、急いでズボンを引き上げ、慌あわててチャックを締(し)めた。

「ギャーッ……」

何が起きたか分からぬ。強烈な痛さが脳天(のうてん)を突き抜けた。

「レンギで腹切る血の涙」

レンギ(連木)とはスリコギのことである。スリコギで腹を切れば、痛さで血の涙が出ると言うのである。それほどの痛さがオイラの脳天を襲(おそ)ってきた。不可能なことをやってしまった報いなのか?

今だから順序立てて話せるが、一瞬の失敗であった。
パンツを上げずに、ズボンだけ上げたのだ!

パンツを上げ、次にズボンを上げ、しかるのちにチャックを締めていれば、かかる災難に遭わずに済んだものを!