第一章 注射にしますか、お薬にしますか?
日本原で戦車隊に囲まれる
渡船に乗っていると、鹿やイノシシが泳いでいるのに出合うことがある。
彼らは海水浴をしているのではない。大抵はオスで、縄張り争いに負けたか、食べ物を求めて移動しているのであろう。
驚くのはその遊泳力で、調べた訳ではないが、水掻きもついていないあの細い足で、一〇キロ位は平気で泳ぐと思われる。
日振島へ釣行した帰りの船で、陸地間の距離一〇キロは楽にある海の真ん中をイノシシが悠々と泳いでいた。
北西の強風が吹く二月の初めで、船は波にもまれてローリングしながら、二基のエンジンをフル回転させて走っていたから、野生のイノシシといえども大変なことだったろう。
若い船長に聞くと、
「よく見ますよ、平気なんじゃないですか」
野生動物は恐るべき身体能力の持ち主なのだ。
プレジャーボートで小豆島と浮ノ子(ふのこ)島の海峡で釣りをしていた時、鹿が泳いでいるのに二度も出会った。大きな角をしていたからオス鹿だろう。
「捕まえよう」と友が言う。
錨(いかり)を上げて、船で追い回したが、勝負にならなかった。
彼らは機敏で力強い。
とてもじゃないがオジサンたちの相手ではなかった。