「学生らしい格好をしてるんだからいいんじゃない。セットはやめときなよ。アホみたいに値段が高くなるから」
カレーを食べる頃には、少しずつだが会話が弾み始めた。
「これからどうするの?」
「『祐天寺』ってお寺に行ってくる」
「ん?」
「桶狭間の合戦のとき、織田方の武将がそこに集まって出陣した言い伝えがあるの」沙耶伽は今の世なら歴女と呼ばれる女の子だろう。
「大学の前のバス停から乗れば一本で行けるよね。バス停がどこか教えてくれる?」
「心配だな。俺も行く」
「えっ。悪いよ」
「兜の一つも見つければ、カレーをセットで食えるかもしれない」
僕も歴史は嫌いじゃない。僕は二人分の空いた皿をトレーにのせて立ち上がった。「こうして並んでバスに乗っていると潮干狩りに行ったことを思い出すね」
「あぁ。親に内緒で行った時な」
「小学校の三年生の時だっけ。 怒られたよね」
「怒られた。怒られた。でもあの後おやじ、喜んでアサリの味噌汁飲んでたぜ」
バスの狭いシートに二人で腰を下ろした頃には、兄妹のように過ごした時間に巻き戻されていた。僕が心の奥に隠しておいた何かが優しく弾んだ。
翌日から、避けていたお店のシフトを解禁した。
それ以来、沙耶伽は僕を頼りに、移り変わった八事の町のことをあれこれ訊ねるようになった。
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処女だった彼女は、僕に身を委ねてくれた。殺風景な六畳の和室、薄い布団に包まりながら、僕の胸に顔を伏せていた。
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