――「ごめんごめん」
グレーのスーツに黒シャツの襟を直しながらカイは小走りに誠の前に現れた。右の耳には少し大ぶりなイヤーカフが着けられていた。
(これからルージュパーティー参戦!) スーツ姿の写真をSNSに投稿し終え顔を上げた誠の鼻先には、いつものカイのジャスミンのトップノートの清涼感が香っていった。
「カイさんまた何処で引っかかってたんですか?」
「あぁ、ちょっとそこでな……ごめんな」
カイはスーツで現れた自分を(カイくん! かっこいい!)大袈裟に歓迎してくれるワイン色の鬘を着け、ドラァグクイーンと化したママのピンクのドレスを思い出していた。
イベントスペースのガラスのドアを開けると、さっきカイが来た時の静けさが噓のような、耳の奥を叩いてくる重低音のリズムが、コンクリートの壁を叩きながら背の高い二人を向かい入れてくれた。
受付の周りにいた女の子達も、これから始まるイベントに胸を高鳴らせるロッカースペースにいた娘(こ)達も、それぞれがカイと誠二人に必ず視線を向けていた。
一七〇センチある二人が一緒に歩けば当然注目を集めた。そして二人はもちろん人目を引くように格好もつけていた。
それから、カイと誠という名はもちろん通り名であり、カイは、快という字に(心が晴れ晴れする)という意味があるのを知り、それを通り名とした。誠は、新選組を題材にしたアニメに登場する隊士に憧れ、その名を通り名とした。
もちろん本名を名乗る子がほとんどだったが、カイと誠はその姿と本名にギャップもあり、ボイが通り名を名乗ることはビアンの世界では珍しいことではなかった。
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