フィールド

「ほーら! ミオ、何してるの! 早く準備しないと! まだショットの準備できてないでしょ!」

同じ衣装の理恵の声が、がらんとしているイベントスペースに響いた。

理恵の言うショットとは、『ルージュパーティー』と名の付いたイベントの最中にダンサー達がトレイにのせたカラフルなショットの酒を売り歩くための準備で、理恵は長年続くこのウーマンオンリーのイベントの主催者であり、仲通りにあるビアンバー『ルージュ』のオーナーでもあった。

毎月行われているイベントは、去年二十周年を迎え、ビアンバーも十二年目を迎えていた。

ミオがカイと出くわすたびにしてくる戯れも、ミオが人気ナンバーワンのダンサーであることと、自分の恋人であるカイへの憧れは、そのまま自らの自尊心の養分となり、この二丁目で二十年以上ビアンの先駆者である者として、ついこの間二丁目に足を踏み入れた若い娘に、目くじらをたてるわけにもいかず微笑んでやり過ごしているのだった。

「はぁ~い……カイさんまたね。今度はバリアン行こうね」

ミオは、名残惜しそうにカイに向かいグロスで艶めく唇を尖らせた。

「ミオも毎回、あきないね」

気だるそうなカイが放つそのクールな色香は男そのものだった。

「あきないもん! ずっとこうして言い続けたら、いつかカイさん! ミオのこと好きになっちゃうんだから」

ミオは綺麗な二重で微笑みながら、足早に天鵞絨(ビロード)の向こうへと消えていった。

「ありがとう、ごめんね助かった」