「そうですねえ。でも川名さんのそのイメージの受け取り方はある意味至極尤もで、確かに特に彼の最期、というのも三島由紀夫の最期については川名さんも御存じかもしれませんが、あの壮絶な最期のイメージと相俟って、彼の作品ははなから敬遠する人もいるでしょうね」

「そう。やっぱり私も三島由紀夫さんのあの最期のイメージがあまりにも鮮烈で強烈で、私がその作品世界に取り込まれてしまったら、もう、ここで介護のお仕事なんてしていられなくなってしまうかもしれません」

「そのお気持ちはよくわかります。僕も今『金閣寺』も含めて彼の一連の作品を読み返していると、この職場で仕事をしながらも、『自分はこのままこの職場で介護の仕事だけで終わってしまっていいのか?』という焦燥感に苛まれる時があります」

「ああ、やっぱり一ノ瀬さん程の人に対しても、三島由紀夫さんの作品は人間の生き方も含めた人生に対するいろいろな問題提起としての示唆を与えてくれるんですね」

「それがやはり彼の死後、これだけの年数が経っても、彼と同世代の読者は元より、その後の次世代の若い世代にも多大な、そして絶大な影響を与えてきた証拠でしょうね」

一ノ瀬はここまで川名香澄の三島由紀夫に関するこれまでの知識の量や理解の程といったものを、その一連の会話を通して推し量りながら、自分の三島由紀夫に関する知見を、それも「日常会話の中の三島由紀夫論」といった趣向で展開してみた。

果たして、その一ノ瀬の自説に対する川名香澄の受け取り方と表情の変化を注意深く観察してみた。

すると川名香澄はやはりその時の一ノ瀬の印象として、自分の三島由紀夫に関するこれまでの不勉強に対する焦燥感を若干表情に滲ませながらも、必死に一ノ瀬の言外の自分に向けられた期待に応えようとする前向きな意欲の程は一ノ瀬にも十分窺えるものであった。

一拍の間があった後、川名香澄から唐突に、全く意外な言葉が飛び出してきた。

 

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