はじめに

「サザエさんとちびまる子ちゃん、どっちが先?」

孫の質問に、私は一瞬、言葉を失いました。私にとって当たり前だったことが、いつの間にか「知らない世界」になっていたのです。

サザエさんは1946年から新聞の連載が始まりました。私が小学校に入る前「サザエさんかるた」というのを買ってもらって、繰り返し楽しんだものです。一方、ちびまる子ちゃんの登場は息子たちの時代。今の子どもにとっては、どちらも「昔のアニメ」でしかないのでしょう。

2017年、母校で高校生に講演する機会をいただいた時も、世代間ギャップを感じる場面がありました。戦中・戦後の話をすると、生徒たちから「もっと詳しく知りたい」「本にしてほしい」という感想が寄せられたのです。

私は1944年、日本領だった樺太(現在のサハリン)で生まれました。第二次世界大戦末期のことです。その後の人生は、まさに日本の戦後史と重なります。焼け野原から立ち上がり、高度経済成長を遂げる日本とともに、私の人生はありました。

以前から、孫たちに我が家の歴史を書き残しておきたいと思っていました。また、母校の中・高校生にも私が体験してきたことを届けたいと思い、講演でお話しした内容などをもとに少しずつ記録するようになりました。

その後、この記録を出版するよう勧めてくださる方がいて、大変迷いましたが、出版を決意しました。2025年は昭和100年、日本の戦後80年、そして、私は80歳。いい機会だと感じました。

「ちびまる子ちゃんよりサザエさんの方が、ずっと古いのよ」

「そうなの? じゃあ、おばあちゃんはテレビでサザエさんを見ていたんだね?」

「見ていなかったよ」

「どうして?」

「テレビがなかったもの」

孫は目を丸くしていました。

私は歴史家でもなく、評論家でもありません。戦中・戦後のことも、ごく身近なことしか分かりません。それでも自分の体験を語ることは、いつか誰かの役に立つかもしれません。この拙著を通して、若い人には日本の過去のことを知っていただき、人生只中の方にはどこか共感していただき、年配の方には当時を懐かしんでいただけたら嬉しく思います。

私のささやかな物語が何かを考えるきっかけになり、戦後81年目から平和な歴史が刻まれることを願っています。

2026年(令和8年)3月  斎藤美栄子