【前回の記事を読む】「孫の表情がよく見えない」それでも放置しますか? “見える目”によって変わる残りの人生
第1章 「見え方」は人生の質を左右する
眼の見え方で変わるQOL(生活の質)
原因不明の眼の痛みに脳の過剰な働きが関係していた?
クリニックを開いて以来、私が取り組んできた眼科医療のひとつに「心療眼科」があります。聞き慣れない言葉かもしれません。
ごくシンプルにいえば、精神的・心理的な要因で起こる体の病気を診療する「心療内科」のアプローチを眼科医療に取り入れたもので、主に知覚過敏による眼の不定愁訴(ふていしゅうそ)に対処します。
開院当初は、白内障やレーシックなどの手術後、特に異常はないのに「まぶしくて仕方がない」「痛い」などの悩みを訴える方のために治療を行っていましたが、今ではほかのクリニックを受診して「眼に異常はない」といわれた患者さんも、当クリニックの心療眼科を訪れるようになりました。
不定愁訴とは、検査で原因となる病気が見つからないにもかかわらず現れる、痛みなどの不快症状のこと。
眼の不定愁訴は、見えている部位には異常がなく、角膜などにある眼球の感覚を司る神経や、もっと曖昧な意味での「精神的な」、いい換えれば、脳神経が原因であることが考えられます。
角膜や結膜の知覚神経が手術の際に切断されると、再生するまでに時間がかかりますから、その過程で痛みが生じる、あるいは痛みに過敏になることがあります。それが原因であれば、対処法は明確です。
眼の不定愁訴を訴える患者さんに対し、私は知覚過敏を和(やわ)らげる「レバミピド」という点眼薬(目薬)を処方します。
レバミピドは粘膜を保護し、白目から出るムチン(涙の成分)という粘液性分を増やすことでドライアイを防ぎ、かつ神経回路を保護して痛みをコントロールする薬剤。ほかの目薬と違って神経に働き、神経細胞の接続部位を保護することで痛みや刺激を和らげてくれます。
多くの方はこの薬で症状が改善しますが、治療が難しいのは、ほかのクリニックに長期間通ったものの、「全然治らないんです」と当クリニックを頼って来院される方です。
眼の不定愁訴は初期症状のうちに抑えることが大切で、痛みのコントロールを適切にしないと慢性化するのです。
知覚過敏などの症状は、刺激に対する痛みの反応パターンを脳が記憶し、その反応を繰り返してしまうことで慢性化すると考えられます。
気がかりなことが頭を離れず、同じ考えや行動を繰り返してしまう「強迫性障害」のループのようなもので、眼の不快症状が繰り返されているうちに、知覚過敏による痛みのループが確立され、痛みに対する反応を繰り返すことになると考えられるのです。