はじめに──増補改訂にあたって

本書は、2019年に幻冬舎から発売された『見えない眼とはサヨナラ! 白内障手術革命』を増補改訂した最新版です。

旧版が刊行されたのは、私が生まれ育った岐阜の地に「柳津(やないづ)あおやま眼科クリニック」を開業して3年が経過した頃のことでした。当時の私は、長年培(つちか)ってきた視力矯正の知見と技術を活かしながら、先進の医療機器を導入して白内障手術に取り組み、多くの患者さんの眼科診療にあたっていました。

その頃、痛感したのは、病気や医療についてよく理解しないまま治療を受けている方がじつに多いということでした。

「病気と医療に関する正しい知識をぜひ身につけていただきたい」

こうした思いから執筆を思い立ち、日々の診療に追われながら上梓(じょうし)した甲斐あって、さらに組織への負担が少ないレーザー式手術装置や、眼の状態を正確に把握するOCT(光干渉断層撮影)装置など先進医療機器によって治療精度は格段に向上しています。

このように治療技術の進歩によって選択肢が広がった半面、患者さんの側にもそれなりの知識と理解が求められるようになります。費用に対して効果はどれだけあるのか、なによりもご自分に合った治療はどれかを見きわめたほうが結果に満足できるからです。

たとえば、これまで主流だった単焦点眼内レンズを使った手術には、健康保険が適用されます。他方、近くも遠くも見えるというわけにはいかず、ほとんどの場合、老眼鏡など眼鏡を装用する必要が生じます。

これに対して、多焦点眼内レンズは、老眼や近視、乱視などに対しても有効で、見え方の質を劇的に変えることはできますが、健康保険で治療費全額をカバーすることはできず、したがって治療にかかる費用は多額になります。

では、どちらを選ぶべきか? この問いに対する答えは一概にはいえません。眼鏡の使用が苦にならない方なら、単焦点眼内レンズを選んでもよいでしょう。眼鏡を外してアクティブに生活したい方なら、多焦点眼内レンズを選んだほうがよいかもしれません。

いずれにしても、最も大事なことはご自身の生活スタイルに合った眼内レンズを選ぶこと、そして、そのための適切な治療を受けることです。

旧版の反響は小さなものではなかったように思います。私のクリニックへ来院された患者さんのなかに「ご著書を読んで、こちらで治療を受けたいと思いました」とおっしゃってくださった方が何人もいらしたのは、たいへんうれしいことでした。