【前回の記事を読む】白内障手術は衰えを取り戻す“アンチエイジング医療”として位置づけられている? 多焦点眼内レンズで取り戻す見える喜び
第1章 「見え方」は人生の質を左右する
「見える」ことの重要性
視覚が衰えたら日常生活が困難になり、楽しみも半減
誰にでも訪れる、主に加齢による眼の障害の代表が老眼(老視)と白内障です。
よく見えているときにはほとんど意識しませんが、眼に障害が起きると、人は視覚の重要性を痛感します。ほとんど視力が失われることはない白内障といえども、視界がぼやけるだけで日常生活の不自由・不便はたいへんなものです。
新聞や本を読む、手紙やメールを読み書きする、家事をするなど近い距離を見て行うこと、テレビを見るなど少し離れた距離での行動に不自由することを、患者さんからよく聞きますし、目の前が不安なため、立つ・歩く・上る・下りるといった当たり前の行動に支障をきたすこともあります。家庭内の思わぬ事故や転倒などから、介護が必要になる高齢の方もいらっしゃいます。
運転免許証の更新ができなくなったということもよく聞きますが、これは事前にわかってよかったといえます。視力の衰えに気づかず、事故を起こそうものなら命の危険があり、それが加害事故であれば、精神的・金銭的に大きな負担となるのですから。
お子さんが独立したり、ご自身がリタイアされたりして、時間の余裕ができたご夫婦が楽しみのひとつに挙げる旅行では、見ることを存分に味わえなくなるかもしれません。
また、テニスなどボールの動きを眼で追う球技が難しくなるのはもちろん、ジョギングやウォーキング、山登りなどでは、転倒しやすいなど事故のリスクが高まります。
白内障の見え方を体験する眼鏡があります。それをかけると視界全体がぼやけて、注視が要求されるものほど見えにくくなり、私はかなりの不自由を感じました。
白内障が進行しておらず、老眼と近視だけだとしても、見る対象を変えるごとに眼鏡をかけ替えるのはわずらわしい限り。眼の障害によって楽しみが半減し、やりたいと思うことが制限されるとしたら、それは残念なことです。
幼い頃、私の夢はパイロットになることでした。航空機を自在に操るパイロットに憧れ、どうやったら航空大学校に入れるか自分で調べたものです。そこでわかったのは、裸眼で視力1.0が求められるということ(現在は基準が緩和されて矯正視力でも大丈夫です)。
中学生頃から視力がどんどん低下していた私に突きつけられた無慈悲な現実でした。最先端科学の結晶のような航空機の操縦においてすら肉眼で確認することを重視するという、私にとっては残念であると同時に、視覚の重要性を認識させてくれた経験でした。