玉音放送が流れた日
その日は、昭和二十年八月十五日だった。Mは晴雄の所へ家を引っ越したことを伝えに行く途中、田んぼの畦道を歩いてくると大きい黒い牛がいて、Mが駆け出すと追いかけてきた。走れるようになったMは必死に逃げて近くの家に駆け込んだ。
そこの縁側では数人の大人が集まってラジオを聞いていた。
「ビービー、ガガガッ」と雑音が入ってMには誰が何を言っているのか分からなかった。
「天皇陛下のお言葉じゃったのう。よう聞こえんかったが、日本は鬼畜米英との戦争に負けたんじゃ。本土決戦までやると言うとったのに、これからどうなるんじゃろうかのう」
と、爺やが、がっくりとうなだれた。
Mが「本当に日本が戦争に負けたんか」と問い質した。
「玉音放送で天皇陛下が言うたんじゃけえ、本当じゃろう」
「神風も吹かんかったのう」と、もう一人の老人が頭を抱えた。
「アメリカが来て、わしらは皆殺しされるんじゃないかのう」
と、他の老人が呟いた。
「これから、わしらは、どうすりゃええんかの」
と、おばさんが両手で顔を覆った。
「田舎にもアメリカ兵が乗り込んできて、若い女は連れていかれるんじゃないんかのう」
と、老婆が心配そうにうなだれた。
なんで天皇陛下は原爆を落とされる前に降参しなかったのかと、Mは思った。
<今子 正義『ピカ・ドン(原爆落下)とマリリン・モンローを見た少年M』(幻冬舎メディアコンサルティング)より抜粋>
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