「っ……あなたが、自分から表に出ないって、決めたんでしょう!」

「撮影で、俺が下がってくれと言われた時」

雅彦の声は、静かだった。

「君は一度も、こっちを見なかった。カメラの方しか、見ていなかった。……俺は、君の隣にいるつもりだった。なのに、いつのまにか、ずいぶん遠くに、置いていかれた気がするよ」

よし子は、言い返せなかった。

その夜、よし子は離れを出た。空いていた客室の布団に、一人で潜り込む。

結婚してから、夫と別々の部屋で眠るのは、初めてだった。

スマートフォンを握りしめ、美咲に電話をかけた。声を聞いた途端、涙があふれた。

「お母さん……お父さんと、けんかしちゃった」

『えっ、二人が? めずらしい』

「お母さん、調子に乗ってたのかもしれない。テレビだ、取材だって、浮かれて。一番大事なものを、ちゃんと見ていなかった」

美咲は、少し黙ってから、静かに言った。

『……ねえ、お母さん。お父さんは、お母さんが嫌いになったわけじゃないと思うよ。たぶん、寂しいんだよ。それだけ』

(寂しい――。私は、雅彦さんを、寂しくさせていたの?)

天井を見上げる。湯けむりも、月明かりもない、ただの暗い天井だった。

 

 

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