第一章 家族ネタ
雀のお宿
A 昔話で舌切り雀の話知ってるか。
B 知ってるよ。小さい頃、毎晩母親に読んでもろたがな。
A この話のおじいさんは良いおじいさんで、悪いのはおばあさんってことになってるやろ。
B そう思ってるで。
A あれって間違いやねんで。
B うそ、そんな話聞いたことないで。
A ほんまは、あのおじいさんは怠け者で、ろくな仕事もしてへんねん。
B 昔の話やから畑仕事してるんとちゃうのん。
A 雀なんか可愛がって、ノラリクラリと暮らしてる非生産的な人間なんや。おばあさんの紐(ひも)みたいな人間なんや。
B 非生産的やなんて、えらい難しい言葉知ってるな。その話ほんまか。
A おばあさんは欲深いと言われてるやろ。それは甲斐性なしのおじいさんと、長年暮らしてるから、貧しい家計のやりくりに必死やから欲深くもなるねん。
B おじいさんも働かなアカンやん。
A お釜のご飯を一粒も残さずに、やっと糊を作ったんやで。
B へえ、そうやったん。
A やっと作った糊を、おじいさんに甘やかされた雀が、食べてしもたんや。
B おばあさんが必死で作った糊を雀が食べてしもたんやな、あかんやんか。
A おばあさんが、その雀を憎らしいって思うの当然やろ。そんで舌をチョン切ったんや。
B 何も舌を切らんでも。
A おばあさんを責めたら可哀そうやで。もとはおじいさんが悪いねんから。
B 雀も糊舐めたらあかんわな。
A 雀もちょっと我慢したらええのに、チイチイ、キャア、キャアと大げさに騒いで家出すんねん。
B あれって家出なん。
A 甘ちゃんのおじいさんは、家を放ったらかして探し回るねん。
B 畑仕事放ったらかしたらあかんがな。
A キャバレーの女みたいに甘えた声で「よってらっしゃい、おじいさん」って招き入れるねん。
B ええやんか、おじいさん大事にされるで。
A なにがええねん。家で汗水流して働いてるおばあさんのこと忘れて、なんで酒盛りなんかしてんねん。
B ほんでも、おじいさん楽しそう。
A 雀が言うねん「おばあさんの、ご機嫌いかが」って。
B おじいさん、どう答えるねんやろ。