まえがき

家での娯楽といえば、ラジオしかなかった時代の漫才は、言葉の掛け合いのおもしろさで決まる。双方が言葉を発しなければ掛け合いにはならない。掛け合いのおもしろさに、目をつむっていても、手を動かしていても、耳から入ってくる言葉のここち良さに酔いしれたものだ。

今はテレビの時代。テレビの時代の漫才は、画面に食いついていないと、おもしろさは伝わって来ない。画面から目を離すと観客の笑い声だけは、聞こえるが、何がおもしろいのか。まったく伝わってこない。ドタバタと走り回っているだけのように見える。滑舌が悪いのか、早口なのか。いくらボリュームを上げても聞き取れない。

ラジオの時代の「聞く漫才」から、テレビの時代の「観る漫才」そして今は「読む漫才」と変わってきていると思います。「聞く」から「観る」そして「読む」……じっくりと文字で、そのおもしろさを味わってもらえればと思います。

この題目はあの漫才師がすると、こんな風になるのかなと想像して、読んでもらえると、もっとおもしろさが増すと思います。一人で「くすッ」と笑ってもらえれば嬉しいです。

第一章 家族ネタ

大阪のおばちゃん

A 大阪のおばちゃんは、せこいって言われてるやろ。

B 東京の人からは、そう見えてるんやろな。

A 雨にも負けず。風にも負けず。雪にも夏の暑さにも負けぬ。

B 何やそれ。急に宮沢賢治の詩なんかいうたりして。

A 東に安売りの肉があれば、買いに走り。

B 安い肉ってなんぼ安いねん。

A 西に安売りのパンティあれば、何枚も買い。

B ええやんか。安いねんやろ。お買い得なんやろ。

A 今日は五円得したと、ニッコリし。

B 良かったなあ。五円得して。

A 今日は五円損したと、涙を流す。

B 五円位で泣かんでも。

A  そのくせ、衝動的に爆発することがあるねん。大阪のおばちゃんは。

B どういう事や。

A 口のうまいセールスマンが、現れる。そのセールスマンが「シワが無くなりますよ。お腹へっこみますよ」と言う。大阪のおばちゃんはイケメンセールスマンにめっちゃ弱いねん。

B そんな甘い言葉に騙されたらアカンやん。

A シワなんか無くなるはずないと、分かっとっても、大阪のおばちゃんも、やっぱり女なんやな。

B そら大阪のおばちゃんやから、おっさんちゃうわな。おばはんやわな。