その瞬間、「あれ?」と胸のどこかが小さくざわついた。何となく、普通とは少し違う「考え方の筋道」を、この子は持っているのかもしれない、と。
かけっこをすると、息子はいつもみんなを見送ってから走り出す。父はそれを見て、「まぁちゃんは優しいから」と笑った。
私の中の「父」という人は、不器用で、でもやっぱり優しい人だ。その優しさのかけらが、息子の中にもちゃんと受け継がれている――そう思うと、少しだけ胸が温かくなる。
第2章 青春と、道ならぬ想い
教室を出て制服を脱いだあと、世界は一度、明るく開けた。友達と笑い転げた高校時代、アルバイトに明け暮れた短大時代。
そのままいけば、ありふれた青春の一つで終わっていたかもしれない。けれど、心の隙間を埋めるように差し出された「優しさ」は、やがて別の人の家庭を揺るがす重さを伴っていた。
笑い転げた日々
小学校時代が嘘のように、高校、短大時代は毎日が楽しかった。制服のスカートの裾を少しだけ短くして、放課後には駅前のファストフード店でポテトをつまみながら、友達とくだらない話で笑い転げる。
部活帰りの汗と、ポテトの油と、コーラの炭酸の匂いが混ざった店内。店員さんに「そろそろ閉店です」と言われるまで、私たちは喋り続けていた。
短大では、講義の合間に中庭のベンチで空を見上げた。蝉の声、冬の冷たい風、春の花粉。どんな季節の空も、その頃の私には眩しく見えた。
バイトも始めた。レジ打ちをしながら、レシートを渡す手つきに一喜一憂したり、年上のパートさんの恋バナに耳を傾けたり。
バイト代で初めて自分の服を買った日は、レジ袋を抱えて何度もショーウィンドウに映る自分を見た。
いま振り返ると、「ちょっと飛びます!」と言いたくなるほど、あの頃の私は、いまの私からは想像できないくらい、普通の女の子だった。悩みもあったはずだけれど、それ以上に「楽しい」という感情が、毎日の大半を占めていた。
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