【前回の記事を読む】上司を滅多切りにし、血を浴びたまま団地の屋上から飛び降りた非正規の男性――彼は中学の先輩だった。「兄貴」と慕われ…
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──定時制高校の先生、それに中学校のときの担任「岡ちゃん」。あの二人だけが救いやったんやー。いい先生やったからなあ。どれだけ乱暴を働いても、俺をどこまでもかばってくれた。
他の先生から「あいつはどうしようもないやつや」とコケにされても、俺のいいところを見つけようと必死やった。
俺を見限ることは絶対にしなかった。俺の防波堤にいつもなってくれた。この人だけは裏切ったらアカンと思ってた……、でもやってしまったんや。
とうとうしたらアカンことをやってしもーたんや。俺っちゅう人間は、やっぱしダメなんやなあ。何やってもダメなんや。あの人まで裏切ってしまった……。
俺の胸底に棲みつく魔物が暴れだした。制御しきれんぐらい暴走しだしたんや。あれほど心に誓っていたのに……なんということや。
暗闇のなかですすり泣く声が聞こえてくる。誰が泣いているのかと眼を凝らしていると、あの先輩だった。
痩せこけた顔の眼球がギョロリと光る。水底にたゆたう骸のように見えた眼がぼくを見ている。憂いを潜ませたままぼくを見ている。
「おまえやったんか。テツの友だちというのは。俺にこんな後輩がいたとはなあ」と言いながら、ぼくに握手を求める。ぼくは手を差し出した。冷たい手だった。氷のように冷たかった。
とっさに温めてあげたいと思った。先輩が手を引っ込めようとしたけれど、ぼくは離さなかった。片一方の手でさすった。ぼくの手の温もりがたちまち冷え切っていく。それでもさすり続けた。
「ありがとう、もういいよ。それだけで十分や」
そういう先輩はもう骸の眼窩ではなかった。眼が優しく微笑んでいた。ぼくが初めて見る顔だった。本当はこういう顔なんだとほっとした。写真で見たどうしようもないほどの寂しい顔は消えていた。
「どうしてあんなことをしてしまったんですか。ぼくらにはわからない苦しみがあったんでしょう。先生、後悔しておられたんですよ。『どうしてわかってやれんかったんかな』と言いながら、慟哭しておられた。ご自分を責めるばかりしておられた。憔悴しきって見ていられないほどだったん、ですよ」
語尾を強めた「ですよ」という最後の言葉は、先輩を責めているように聞こえるかもしれないと思いながらも、言ってしまった。
「それ以上は言わんといてくれ。あの人まで裏切ってしまったんやから」
そう言う顔はまた水底の眼窩に戻っていた。眼球のない眼窩──底知れぬ闇に落ちていく骸のような。
あーと大きな叫び声をあげて、目が覚めた。夢だったんだ。夢を見ていたんだ。
夢のなかであの人はぼくに会いに来てくれた。それなのにぼくはあの人を責めてしまった。すーっとフェイドアウトしていく先輩の後ろ姿、その姿が霧のなかに消えていく。