温かい言葉ひとつもかけられず、あの人を非難した。寄り添ってあげないといけないのに、ぼくは、ぼくは……と己の狭量さを責めた。
それでもぼくの思いが、一瞬でも通じたことに感激した。悲しかったけれど、幸せな余韻がいつまでもぼくの胸をひたした。また会える、きっとまた来てくれるという確信があった。
ぼくの親はぼく個人を大事にしてくれる。学校に行かなくなったぼくに、無理強いすることはなかったし、自分の思うがまま自由にさせてくれた。
何かひっかかることでもあれば、そこを突破口としてそういう人の立場を、自分のことのように咀嚼し、寄り添える手立てがつかめるかもしれないが、自分には先輩の闇を思い図る心の度量がない。
幼い頃母親に捨てられ、父親からも相手にされない不幸な生い立ちだった先輩。もうこの世にはいない人なのに、先輩の孤独を癒したいと願う心ばかりが、膨らんでくるのだった。
自分は恵まれているとつくづく思う。思いどおりにぼくの個性を生かしてくれていることに感謝しているのだ。
がんじがらめに鋳型にはめようとする、親のエゴとはまったく無縁だった。己の好きなようにさせてくれた。
ぼくを信じ見守ってくれているのだ。そういう親の愛を感じる。ずっと前からそうだったとは言えない。小中学生の頃は反抗していた。表だってはしていないけれど、心の中は不満だらけだった。
こういうことが言えるようになったのも、テツや先生との接点ができてからだ。なにより先輩の存在を知ったからだ。
ぼくとまったく反対の境遇だった。ぼくが先輩の立場だったら、どんな気持ちになるかと思うといたたまれなくなる。自暴自棄になってしまうだろう。もっと荒(すさ)み、根無し草のようになってしまうかもしれない。
それでも先輩は中学校の荒んだ生活から足を洗い、働きながら高校を卒業した。真面目に働いていたのだ。
自分を支えてくれた岡ちゃんや、親身になってくれた高校の先生の恩に報いようと、家を出て己のなかに潜む魔物と闘いながら、身を粉にして働いていた。
それなのに、どうしてこんなことになったのか……と、悔しさばかりが込み上げてくる。
先生もそう言っていた。「ようやく暗いトンネルを抜け出せて、やっとこれから、本当のあいつの人生が始まるところだったのに……、なんということや!」
先輩の人生って、本当になんだったのだろうか。夢から覚めてもそのことばかりが、心の中を巡り回っているのだった。
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