名主の仕事は沢山ある。村内では一番高い家格であり知識層でもある。主な仕事に年貢の取り立てと管理、戸籍事務と関所手形の作製などがある。

簡単そうに見えるが、これが難しかった。

栄蔵は読み・書き・ソロバンは得意で、したがって帳簿などの事務はうまくやれたが、裁判に関わる公事方、交渉事は苦手であった。人の言(げん)に呑まれた。

ある時、左門から年貢の徴収の仕事を栄蔵は言い付けられた。この凶作のなかでどれだけ年貢の取り立てができるか、まずは組頭を集めて報告を受けた。

組頭の一人元助が、

「おらの組はみな米は不作でほとんど穫れなんだ」

「おらの組も同じだ」

「おらの組もだ」

みんな減収である。栄蔵は言葉が出なかった。頭をかかえた。

元助は、

「何年も日照りが続いちゃ、米は穫れねぇ。飢えて死ぬしかねぇ。藩の御救い米じゃ生きて行けねぇ」

と項垂(うなだ)れた。栄蔵は左門に相談した。

「郷方(ごうかた)回りとも相談しましたが、埒が明きませんでした」

その減収分は名主が肩代わりしなければならない。とはいえ名主の財力にも限りがある。

左門は、「借財して賄うしかないだろう」と言って難しい顔をした。

栄蔵は、「また京の両替商『百足屋(むかでや)』久左衛門さんのところから借用するのですか。父上、今何町畝担保に入れているのですか」と聞いた。

「もうすでに四十五町畝だ。それでもまた久左衛門さんのところで用立ててもらうしかねぇだろう」

と、左門は力なく言った。

その言葉通り、左門と栄蔵はすぐに京へ向かった。

「父上、京は出雲崎と違って、みんな飯を食べられているみたいですね。餓死者が転がっていない」

と、栄蔵は羨ましかった。

左門は、

「天皇様のお膝下や、各藩の藩邸もあって、どの藩も面子があり、どこからか米を都合してくるのだろう」

二人は歩きながら京の賑わい振りを見ていた。

 

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