「三か月じゃ無理でしょ!」
川田は目を剥いた。
「俺たち土木作業はド素人ですよ。木を切るだけでも大変なのに、このキャンプ場全部を囲む距離って――!それに、畑とか釣りとか、他にもやるべきことがあります。工事にかかりっきりになりませんか?」
「でも、安全の確保は必要だよ」
「それはそうですけど……」
川田は周りに控えている他の中学生男子を見た。みなおどおどした目をしている。キャンプの安全のためなら何でもやるつもりだが、あまりに無茶な計画に、簡単には同意できかねない様子だった。
「ちょっと俺たちにも考えるチャンスをもらえませんか」
川田は毅然と言った。もとより大学生以上のアイデアが出せるとは思っていない。しかしこのままでは――川田の胸には、ある種の、別の不安が芽生えていた。彼は怒りすら覚えていた。塀づくりの内容についてはさておき、それを行うことについて、中学生への打診は無かった。まったくの大学生主導である。
「川田君」林は淡々と言った。「ここは大学生の意見に従ってくれないか。塀作りは大工事になるから、全員の協力が不可欠だ。心を一つにしなくちゃ、成し遂げられない。他のみんなも、そういうことなので、よろしく」
川田は下唇をかんで引き下った。
――全然ミンシュシュギじゃねえ……。
腰を下ろす彼の横顔を、少し離れたところで木崎が見つめている。その瞳は複雑な色に揺れていた。
さらにその様子を離れたところから泉が見ている。
彼女は感心していた。中学生たちの変化は著しい。タイムスリップ前は口も利かず、呼んでも返事もしなかった。その筆頭格が川田と木崎だった。その二人が、いまや盛んに意見をし、集団に関わっていこうとしている――なんという成長だろう。
泉は次に林を見た。いつも優柔不断な林が工事を押し切ったのは、泉をはじめ他の大学生らが、あらかじめ釘を打っていたからである。押し通すところは押し通せ――林はみなの注文通り、顔色一つ変えずそれをやりきった。しかし、根っからの優柔不断なら反対意見が少しでも出れば多少は顔に出る。だが、林はそれを切り抜けた。もしかしたら林には優柔不断という一言では片付けられない、特別なセンスがあるのかもしれない。
――ただ、言えることは……
泉ははっきりとこう思った。
――さっきのごり押し、林君じゃなかったら、きっと中学生は認めなかったと思うわ。