伊吹は、在宅療養で看取りまで望まれる時に、その思いを深く聞くことにしている。その思いを自分で語らない人も多いが、その中でも、なんとか探っていくのが自分の務めだと考えている。
北川修二にとっては、自宅での自らを含めた差配を見せる姿が、自分の生き方そのものであるのであろう。この家の増築を見届けることが、北川の本望であり、在宅マインドであろう。
亡くなる10日ほど前に部屋は完成した。そのタイミングで近い親族が集められることとなった。現在では人生会議と言われるACPの会議が望ましいと言われているが、その当時はそんな話は全くなく、そのような会議に医療関係者が入るなど考えもされていなかった時代である。
娘の結婚式に看護師さんが同行するような話を聞くこともあったが、財産の相談と思われる会議に呼ばれるとは予想もされていなかった。
伊吹は、北川修二から強く依頼された。
「先生、頼むから、俺が立派に務められるように見てほしいのや。実は、俺の世話をしてくれている嫁は妾で籍は入れていない。娘は一人だが、家業を継ぐことはない。嫁がせた。ここは誰も継がせず、親戚の赤林が手広くやっているから仕事は譲る。
この部屋は実は元の嫁さんの部屋にしたいのや。寂しく暮らしていて俺が追い出した女や。不憫やから死んだら、はなれの部屋に住まわせる。娘の本当の親やからな」と息をはーはーと言わせながら伝えた。
伊吹は、これだけ話せるなら大丈夫ですよ。よかったですね。私でよければ当日も付き添います。そう伝えた。
今となっては、その後どうなったかは知らないが、電話がかかってきたということは、実の母親が住んでいたということなのか?
いずれにせよ、深い思い出を感じることもあり、即答した。もちろん見させていただきますが、実は私も歳ですので、いつも相棒の医師と一緒に診させていただいています。そう答えた。
娘の北川鈴子が、話を続けた。
「実は母は乳がんで皮膚が爛(ただ)れてしまって、出血も時々するんです。医者には、肺や骨に転移があって、放射線も治療の薬ももはや効かなくなったと言われているんです」
同じグループの「つながる訪問看護」の三浦芳江はWOC(皮膚・排泄ケア認定)ナースで、おそらくこの分野もよく知っているであろうし、疾患的にも勧められる。
「ちょうどよかったです。傷の処置も含めて全て対応できると思います」と伊吹は答えた。
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