店の前で待っていた見張り役の二人を帰し、長者橋まで移動したところで、話を始めた。

「オヤジの話だと、三村は若い頃から賭場に出入りしていて、いちいち文句を付けてくる面倒な客だったらしい。だから、追い出されては、ほとぼりが冷めた頃に戻るってことを、繰り返している」

平井は懐から紙巻き煙草とマッチを取り出した。そのときに着流しの共衿の部分がはだけ、左肩の刺青が見えた。魔除けの意味合いで入れることの多い、生首の図柄だった。

一本を咥えた平井はマッチで火を点ける。浅田にも勧めてきたが、首を横に振ると、諦めて懐にしまい込んだ。

「あんたらの賭場で負けが嵩んだものだから、うちらのところへ舞い戻ったんだろうな。その縁で立ち会うことになった。しかしな、あんなのに貸しを作ったところで意味はない。あんたと兄弟分になった方がよっぽどいい。なにせ、あんな儲かること間違いなしのシノギをはじめた御仁なんだからな」

言葉を発しようとしない浅田に対しても、平井は寛容で「なってくれるなら、金なんて払わなくていい。考えてみてくれ」と言って浅田の肩を手の平で叩くと、立ち去った。

入れ替わるようにして、離れた場所に立っていた北山が近づいてくる。浅田が「おまえ、現場にいたのか?」と聞くと、北山は首を横に振って答えた。

「女のところに行ってました。準備が一段落して、酒盛りが始まりまして。代貸が、下戸な俺に気を使って、許しをくれたんだと思います。しかし、まさかこんなことになるとは……」

「あそこに残っていたのは、何人だ?」

「代貸含めて、五人です。現場で探してはみましたが、見つかりませんでしたし、保土ヶ谷の賭場にも来ていないとなると、逃げ出せなかったと考えるべきかと……」

浅田が一家の者として把握しているのは、北山も含めて六人だった。

「それで、今後のことなんですが、俺はなにをすればいいんでしょう? こちらに世話になる前は、東京の一家で本出方まで務めさせてもらってました。賭場なら開けますし、人も集められます」

北山の年齢は、自分のそれと大きくは変わらないように見える。博徒として場数を踏んでいてもおかしくはない。

しかし、三村はともかくとしても、あろうことか新地組の組員まで、保土ヶ谷の賭場に案内した男である。

 

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